◆第52回高松宮記念・G1(3月27日、中京競馬場・芝1200メートル=重)
春のG1ロードの開幕を告げる第52回高松宮記念・G1(芝1200メートル)は中京競馬場で行われ、8番人気のナランフレグ(牡6歳、美浦・宗像厩舎)がインからしぶとく伸びてG1初挑戦Vを飾った。鞍上の丸田恭介騎手(35)=美浦・フリー=は、宗像義忠調教師(67)とともに悲願のG1初制覇。また、2着は5番人気のロータスランド、3着には17番人気のキルロードが入り、3連単配当は278万4560円の波乱となった。
14番手で直線に入ったナランフレグの前には13頭。枠なりにラチ沿いを進み、腹をくくってインに潜り込んだままの丸田は残り200メートルで勝負に出た。先行するレシステンシアの外側に開いたわずか1頭分のスペース。そこへナランフレグをねじ込んだ。さらに外側のトゥラヴェスーラとは何度も馬体をぶつけながらも、鞍上の執念が乗り移ったかのように相棒はひるまない。上がり3ハロン33秒9の決め脚で抜け出して堂々のV。「俺は勝ったのか? 勝ったのか?」夢にまで見たG1制覇。鞍上の頬を自然と涙が伝わった。
この日、コロナ禍による入場制限が昨年より緩められたことで前回の高松宮記念の約3倍となる5931人がスタンドで激闘を見つめた。「喜んでいいんだよ」。一人のファンの声が耳に届くと、丸田はようやく勝利を確信。あふれる涙を抑えきれないままガッツポーズを繰り返した。デビュー16年目。現在はフリーだが、2007年から18年までは宗像厩舎の所属。開業30年目で70歳の定年引退が近づくトレーナーにとってもこれがG1初制覇。「常に宗像先生とG1というのは頭にありました」。自らの12度目のG1挑戦で師匠に最高の恩返しをした35歳はやっと笑顔になった。
ナランフレグも父ゴールドアリュールに産駒初の芝G1勝利をプレゼント。19年12月の白星以降、13戦も勝ち星から見放されたこともあったが、今回で21戦目のコンビとなる丸田の手綱を通じて馬も成長していた。「古馬になってより体も気持ちも充実した」とトレーナー。武器の末脚を磨きながら、馬群にひるまない根性も身につけたことでG1のタイトルに手が届いた。
そして、丸田も馬に負けない成長を遂げた。かつては福島などのローカル開催を主戦場としていたが、昨年からは騎乗数が減ることを承知で“中央場所”でのプレーにこだわってきた。すべては大舞台で活躍できる騎手になるため。「これからもまた、強い馬たちと戦って勝利できれば」とG1ジョッキー。次は秋のスプリンターズS(10月2日、中山)でのG1・2勝目が目標だ。苦しんだぶんだけ強くなった“トリオ”はまだまだ強くなれる。(恩田 諭)
◆丸田 恭介(まるた・きょうすけ) 1986年5月20日生まれ、北海道出身。初騎乗は2007年3月3日の中京。同年5月に東京で初勝利を挙げた。重賞初制覇は10年福島記念のダンスインザモア。高松宮記念のナランフレグで今年JRA3勝目。血液型AB。
◆ナランフレグ 父ゴールドアリュール、母ケリーズビューティ(父ブライアンズタイム)。美浦・宗像義忠厩舎所属の牡6歳。北海道日高町・坂戸節子氏の生産。通算29戦6勝。総収得賞金は3億3065万7000円。重賞初勝利。馬主は村木克成氏。