福永祐一調教師(46)=栗東=の騎手引退式が4日、阪神競馬場で行われた。先週のサウジアラビアでラストライドは終えていたが、この日は国内での正式なセレモニー。多くの関係者や騎手仲間が参加する中、かつて「天才」と言われ、自身のルーツとも言える父の洋一さん(74)も来場。武豊騎手(53)=栗東・フリー=からの賛辞に感極まる場面もあった。
2人のヒーローへの感情を抑えきれなかった。「福永洋一の息子として生まれてこなければ、騎手の道を選ぶことはなかった。豊さんの存在がなければ、騎手の道を志すことはなかった」。福永は瞳を潤ませ、声を詰まらせながら、騎手人生の原点に思いをはせた。
引退式で最後に登場したのが両親だった。「天才」と呼ばれた父・洋一さんの車いすを母の裕美子さんが押す。父が落馬事故で引退に追いやられた毎日杯は、1979年の3月4日だった。あれからちょうど44年後、息子の門出に立ち会うため、引退後初めてJRA公式のイベントに姿を見せた。福永が2人に花束を渡す間、交わした言葉は「無事に終われて良かった」。大けがを負った父に寄り添ってきた母から反対されて始まった騎手のキャリア。「辛い思いをさせ続けてきたなと…。長きに渡る親不孝が終わる」と本音をこぼした。
もう一人の指針が武豊だった。この日も重賞を勝ったレジェンドからは「数々のいいレースを一緒に作れた。祐一がいたから、僕自身たくさん成長できた」と最高の賛辞が送られた。「名馬を連れて競馬場に戻ってきて活躍してください」。少年時代のスターとの、新しい約束ができた。
この日は約1万1500人のファンが競馬場に残り、福永“騎手”の幕引きを見届けた。「多くの方に応援していただいて、幸せな騎手人生でした」。式の最後、ファン一人一人の目を見つめるようにゆっくりとパドックを1周。退場の瞬間まで、何度も頭を下げた。
式の終了後、すぐに口にしたのは「こんなにたくさんの人に残ってもらって、ありがたいの一言」。そして、もう一度繰り返した。「幸せな騎手人生と、幸せな引退式でした」。たくさんの愛に包まれながら、“騎手”福永祐一は新たな旅に向かった。(水納 愛美)
ユーイチに聞く
―27年間を振り返って。
「20代はとにかくどうやったら勝てるかを考えていた。30代は技術を見つめ直し、どうやったらうまくなるかを考えた。40代からは競走馬についてより深く考察した」
―師匠・北橋元調教師はどんな存在か。
「家族と同等、それ以上の関係。騎手として(の自分)は、福永洋一と北橋先生の作品だと思っている」
―コントレイルの勝負服で登場した。
「キャリアの最後で切望していたのは、スターホース、競馬史に名を残すような馬との出会い。ただそれだけ。最後の願いをかなえてくれたのがコントレイルだった」