東西トレセンは、競走馬を調教するための施設が、これでもかというほど充実している。追い切りで使われる、坂路やウッドチップコース。他にも芝、ダートのコースや、準備運動に使われる角馬場などがあり、形状も用途も多岐に渡る。
今回はその一つ、栗東トレセンの「競走馬スイミングプール」に潜入。そして、“常連”であるドウデュース(牡5歳、栗東・友道康夫厩舎)のプール調教に密着した。
競走馬スイミングプールは、1988年8月に「強い馬づくり及び故障馬リハビリのため」に設立。
〈1〉円形プール(1周50メートル、幅員3メートル、水深3メートル)
〈2〉直線プール(長さ25メートル、水深3メートル)
〈3〉馴致用プール
の三つが設置されている。
50メートルの円形プールを1周40秒で周回すると、馬場1ハロンを13~15秒で走る速度に相当。またこの場合、馬場を250メートル走ったときと同等の負荷がかかるという。反対に、泳ぐことで背腰の緊張が取れるなど、ストレッチ効果もある。
ドウデュースがプール調教を行う目的について、担当の前川助手は「普通の調教をしても元気が有り余っているから、その余分な元気を取っていかないと」と説明する。活気がありすぎても、暴れてケガをする場合がある。乗り込みすぎても、脚元に負担がかかる。そのようなリスクを避けられるのがプールだ。ドウデュースもプールに入れるとおとなしくなり、落ち着くという。
頻度は週4~5回。2歳時のアイビーSの前から、追い切り日や、それに準ずる時計を出した日以外は毎日通っている。当然、心肺機能や基礎体力も向上。前川助手は「レースとか調教でも、息が荒くなることが少なくなる。回復が速い」と効果を実感している。
では実際、どのように泳いでいるのか? ドウデュースは円形プールを1周し、一度上がってからもう2周するのがルーチン。あとは、体調によって周回数を増減させる。馴致用プールでシャワーを浴びさせるのも日課。「わざと驚くようなシチュエーションを作る」ことが目的だ。
円形プールは壁の一部がガラス張りになっており、水族館のような構造。泳ぐ様子を見上げることができる。今回、ドウデュースの“スイミング”を初めて見学したが、想像以上に速い! そして器用! キビキビと脚を動かし、そのたびにずんずんと進んでいく。ガラス越しでも勢いが伝わってきた。一瞬で目の前を通り過ぎたため、カメラを構えていたのに撮り逃すほど…。人間と同じように、全身の筋肉を使っているのが分かった。
さらに驚いたのは、ドウデュースの泳ぎは特段速くはないということ。前川助手は「慣れてきてるから、ぷかぷか浮いてるだけ。さぼってる(笑い)」と、かわいらしい一面を教えてくれた。また、初めてプールに入る馬はおどおどすることが多いが、ドウデュースは「全然。あんまり怖がらんかった」。元々度胸がある性格のため、すぐに慣れたという。
ちなみに、友道厩舎とプールは目と鼻の先。入口までは徒歩2~3分、出口からは1分もかからない。立地条件に恵まれていますよね? と聞くと、前川助手は「超ラッキーやで! めちゃめちゃ行きやすい」と答えてくれた。プールから上がった後に体を乾かし、そのまま馬房に入れられるなど、やはり地の利は大きいようだ。
一連の取材を終えて、武豊騎手がドバイ・ターフの2週前追い切り(栗東・CWコースで6ハロン79秒5―11秒0)に騎乗した後「今でもケロッとしてるんだもん」と驚がくしていたのを思い出した。前川助手も以前、「調教後に疲れているのは見たことがない」と話していた。昨年は秋古馬3冠を皆勤したように、タフなローテーションもへっちゃら。きっと、プールで体力をつけ、適度にリラックスさせていることが、能力の発揮に役立っているのだろう。プール調教は、ドウデュースの強さの秘けつの一つだ。(中央競馬担当・水納 愛美)