馬の仕事に興味はあるけど、どのように業界に入っていいのか分からない―。北海道の牧場で働いていた私も、少なからずそのような思いを抱きながら、この業界に足を踏み入れた。JRAが7月31日、8月7日に美浦トレーニングセンターで実施した「夏休みキッズチャレンジ!馬のお仕事を体験してみよう」に参加した家族や記事でも、同じような意見が見られた。競馬に携わる一記者として、そして牧場で勤務した経験者として私も何か力になりたいとの思いにかられた。今回はそのきっかけの一例として、私が1年間の研修を受けた軽種馬育成調教センター(以下、BTC)を取り上げたい。
BTCは、北海道浦河町にある広大なBTC敷地内の一部にある研修施設。4月から1年間のカリキュラムでは騎乗技術の習得をはじめ、馬に関する座学など、業界で働くうえで必要な基礎を学ぶことができる。寮は3食付きで、各部屋にバスとトイレがついた個室タイプへ23年にリニューアル。集中して研修に取り組める申し分のない環境が整えられている。
また、来年4月入構の43期生からは、JRAの助成金が増額され、研修費が従来から80%減額の12万5000円。これには道具代や食費が含まれており(年末年始、土日の食費は除く)、金銭面では、かなりハードルが下がったことになる。多くの研修生を馬産地に送り込んできた小守智志教育課長は「研修費の減額がまだ認知されていないのか、今年の応募者は昨年と比べてもそこまで増えてはいません。金銭面の部分で研修を受けやすくなりましたので、ホームページやWeb相談を活用していただき、研修内容等をご確認していただければと思います」。
2025年入構の願書受付は9月5日必着。期間が短く、決断ができないという方には、BOKUJOBなどで行っている体験会に参加することを選択肢としてお知らせしたい。実際に足を運ぶことで研修中の生活をイメージしやすくなったり直接、研修生の声を聞くことができる点も大きい。私もBTCが企画する体験入学会に参加したことで、様々な不安が払拭できた経験を持つ。
例年そうだが、私の期もほぼ全員が未経験でスタート。初期に角馬場で騎乗フォームや基礎を身につけると、6月中にはトラックコースでの騎乗を開始。年が明ける頃には、JRAブリーズアップセール上場予定馬に騎乗できるようになる。「やりたいと思われた方には、こちらも全面的にサポートします」。小守教育課長の言葉通りに、研修期間中に熱心に指導していただいただけでなく、私の場合は就職後も教官方とは相談を含めて交流が続く関係を築かせてもらっている。OBには、青木孝文調教師(美浦)や杉山佳明調教師(栗東)をはじめ、24年度調教師免許合格者の浅利英明調教師(美浦)など十分な実績を残しており、長く活躍する下地をつくることができる。
私の場合は、たまたま叔父の知り合いに牧場経営者がいたため、大学の夏休みを利用して2週間ほど住み込み、牧場の仕事を経験。そこでBTCを教えていただいたことがきっかけになり、入構に至った。同期はJRAの厩務員や大手牧場の厩舎長など、この業界で活躍中。1年間の研修をともに過ごした仲間として、今でも連絡を取り合っている。
この仕事は危険が伴い、決して楽な仕事ではない。記者に転身した私が言うのは説得力に欠けるかもしれないが、その反面で携わった馬がレースに出た瞬間、ましてや勝利を収めた時には通常では味わうことができない高揚感や感覚を味わうことができる仕事でもある。この記事が馬業界への興味を持ったり、一歩を踏み出すきっかけになれば、うれしく思う。(中央競馬担当・浅子 祐貴)