台風15号の影響で発生した東海地方の大雨による被害は、24日に中京競馬場で騎乗する騎手にも試練を課した。タフな移動を強いられたのは、茨城・美浦トレセンから中京競馬場へ移動するはずだった山田敬士騎手(25)=美浦・小桧山厩舎=だ。
ガッツあふれる移動は、是が非でも騎乗したい執念の表れだった。山田は23日午後2時過ぎに美浦を出発。時刻表通りに東京駅発の新幹線に乗り込んだ。この時点では、台風の影響が自身に大きく降りかかってくるとは思ってもいなかった。
「新横浜を過ぎたあたりから、普通の電車のスピードになって…」。列車は静岡駅の手前でストップ。足止め状態となった。車内待機は日付が変わった24日午前2時半頃まで続いたという。
最終的に列車が東京駅に引き返すとアナウンスがあったため、山田は「これでは1Rの騎乗に間に合わない」と降車を決断。停車場所の最寄り駅からタクシーで静岡市内のホテルまで1時間以上かけて向かった。「僕もホテルの中も水浸し。滞在時間は15分くらいでした」。疲れを取る暇もなく、始発時刻に合わせて動き出した。
苦難は日が昇っても続いた。新幹線は三島―名古屋間で正午頃まで運転見合わせ。再びタクシーに飛び乗ったが、「高速が使えなくて下道で。それも冠水した道路を避けながらでした」。1Rの検量時刻に間に合わず、期待していたフェルヴェンテは川田に乗り替わりに。1着となったレースは「ラジオで聞いていました。いいレースでしたね」と苦笑いするしかなかった。
中京競馬場には午前10時頃に到着。11Rでタツリュウオーの手綱を執った(7着)。レースを終えた山田は疲れ切った様子で「タクシー料金は僕の人生で一番高かったです。今週は稼がないと」とポツリ。約10万円に達したという運賃だが、「今日は“普通の”新幹線で移動できます。もちろん爆睡で」。出発から約20時間。壮絶な体験をした25歳は、つかの間の休息を楽しみにしながら、25日の中山で騎乗するため再び東へと向かった。
山田騎手の中京競馬場への移動
【23日】
▼午後2時過ぎ 美浦を出発。
▼同4時 東海道新幹線で東京駅を出発。静岡駅の手前で停車。
【24日】
▼午前2時30分頃 東京への引き返しが決まった列車を降りる。
▼同3時頃 降車近くの駅からタクシーで静岡市内のホテルへ移動。
▼同5時頃 ホテル到着。始発に乗るため静岡駅に向かう。
▼同6時頃 新幹線が正午まで運転見合わせのため、一般道をタクシーで中京競馬場へ移動。
▼同10時頃 中京競馬場に到着。
▼午後3時35分 中京11Rでタツリュウオーに騎乗(7着)。レース直後に中山競馬場へ移動。
〈飛行機絡まずは「非常に珍しい〉」 JRAによると、24日の山田のようなケースは「飛行機が絡まない移動では非常に珍しい」という。過去には04年10月10日、同じく台風の影響による新幹線遅延で四位、幸、本田の3騎手が京都から東京への移動が間に合わず、日曜午前のレースが乗り替わりに。午後のレースから予定通りに騎乗したという例がある。
◆山田 敬士(やまだ・けいし)1997年9月18日、東京都生まれ。25歳。18年3月に美浦・小桧山悟厩舎所属でデビュー。同年4月14日の福島6R(イペルラーニオ)で初勝利。JRA通算1805戦38勝。身長155.6センチ、体重45.3キロ。血液型O。