◆第53回高松宮記念・G1(3月26日、中京競馬場・芝1200メートル)
中央競馬の春G1シリーズの開幕戦、第53回高松宮記念が26日に中京競馬場で行われる。JRAは短距離部門の表彰を、今年からスプリント部門とマイル部門に分けることを決定。21年スプリンターズSの覇者ピクシーナイトは1年4か月の休養明けとなるが、骨折など様々な困難を乗り越え“初代スプリント王”へ復活の一歩を記す。
奇跡の復活をみせるか―。3歳秋にスプリンターズSを勝ち、一度は短距離界のトップに立ったピクシーナイトが高松宮記念で約1年4か月ぶりにターフへ戻ってくる。
名手が早々と見抜いた天性のスピードが最大の武器だ。3歳1月にマイルのシンザン記念で重賞初制覇を飾ったが、福永(現調教師)はレース直後から「マイルは長い。いいスプリンターになる」と断言。その進言もあり、同年夏から早々と古馬相手の6ハロンに投入した。秋にはスプリンターズSを完勝し、福永は「この先、短距離界を引っ張っていく馬」と絶賛。当然、名スプリンターへの道を歩んでいくかに思えた。
しかし、続く香港スプリントで4頭が落馬する事故に巻き込まれ、左前脚のトウ骨手根骨の剥離骨折などが判明。1年以上の休養を余儀なくされた。1月28日に栗東へ帰厩すると、阪急杯での復帰へ新コンビの戸崎も駆けつけるなど意欲的な調整で好時計を連発。ところが、今度は現状で治療法が確立されていないリンパ管炎で後肢の歩様が乱れ、再び復帰スケジュールは白紙に。音無調教師も「阪急杯を使えなくなったのは痛い」と頭を抱えるしかなかった。
度重なるアクシデント。しかし、その高い能力で逆境を乗り越えようとしている。今月7日に再び栗東へ戻ると、15日には坂路で50秒3―12秒1と抜群の時計で僚馬に2馬身追走から3馬身先着。「いい追い切りができた。息の入りも良く、スッと時計が出て文句ない」。高い資質を再確認できた動きに、トレーナーにも笑顔が戻ってきた。
1年以上のブランクでG1に挑み、馬券圏内に入ったのは1993年の有馬記念のトウカイテイオーだけ。音無師は「あれ(香港での落馬事故)がトラウマになってなければいいんだけどね。少しテンションは高いので、当日上がらないように」と慎重に言葉を選びつつ、「1年ぶりは気がかりだが、力を出せれば」と力を込めた。生粋のスプリンターが挑む規格外の挑戦。しかし、奇跡の復活の先には“初代スプリント王”の座が待っている。(玉木 宏征)