◆第９０回日本ダービー・Ｇ１（５月２８日、東京競馬場・芝２４００メートル）
第９０回日本ダービー・Ｇ１（２８日、東京競馬場）で、２度目の連覇と自身の記録を塗り替える最多７勝目を狙う武豊（５４）は、皐月賞・Ｇ１の１番人気ファントムシーフとコンビを組む。初騎乗、いわゆるテン乗りで勝てば６９年ぶり。昨年ドウデュースで最年長Ｖを果たし、再び歴史に挑むレジェンドを、昨年に続き大一番を前に直撃した水納愛美記者が「見た」。
テン乗りは日本ダービーを勝てない―。今回ファントムシーフとの初コンビで挑む武豊は、そんなジンクスもどこ吹く風。取材のさなか、自ら切り出した。「むしろさ、この馬テン乗りで全部勝ってる。初でマイナスになってない。プラスデータ」。思わず、手元にある馬柱を見返す。…数秒後、本当ですね！と２度繰り返してしまった。
全３勝の鞍上が和田竜、福永（現調教師）、ルメールでいずれも初騎乗。その戦歴はすでに名手の頭にあり、吉兆データとして認識していた。「いわゆる、ずっと乗ってたジョッキーが違う馬にっていうパターンと違う気がする」。乗り替わりは前走の騎手がより勝てる可能性が高い馬に騎乗することが一般的だが、乗り替わるたびに勝っているのがファントムシーフ。レジェンドの言う通り、違うパターン。騎乗する本人にも悲観する様子が一切ないのがさすがだ。
“異例”の準備こそ、データを覆す手立ての一つだ。西村厩舎の方針で２週前、１週前の追い切りに騎乗し、最終追いもまたがる予定。武豊が３週連続で調教に乗るのは「あんまりない」。ダービー初出走の厩舎にとって、同６勝の名手はまるで教科書。「３回乗せるってことは、これまで６勝してきてる、そういうところも含まれてるのかな」。コンタクトを取る、レースで騎乗する、それだけではなく仕上げにも関わる―。武豊にしかない経験を、余すことなく生かす構えだ。
取材の冒頭、改めて昨年の勝利を振り返ってもらった。「もちろん勝つチャンスがあると思ってたし、この絶好のチャンスを逃したくないって気持ちも強かった」。その言葉を聞き、１年前のある瞬間を思い出した。今一番欲しいものは、と質問し、「今年のダービー」と即答された。これだけの執念があったからこそ、歴史を塗り替えた１勝が生まれたと実感した。
先週話を聞いた時には「全然オークスの話、出てこない。みんなの会話がダービーやもん」と冗談っぽくほほ笑んだ。それでも、競馬場に大観衆が戻りつつあることに触れると、「もう（制限は）ないのかな。今年はもっと盛り上がる」。最年長、最多勝、２度目の連覇…。あらゆる記録がかかるが、昨年の６勝目が、７勝目への士気をより高めたに違いない。レジェンドは誰よりもダービーを楽しみにしているはずだ。（水納 愛美）
武豊に聞く
―昨年ドウデュースで制し「ユタカ」コールに包まれた。
「久しぶりに味わったしね。ダービーのウィニングラン。ダービーはいいなと改めて思った。何回勝ってもうれしいし、勝ちたくなる」
―ファントムシーフの追い切りに騎乗した印象。
「総合力が高いんじゃないかな。（１週前は）いい動きやったよ。状態いいと思う」
―ファントムシーフと同じ皐月賞３着馬では過去３勝を挙げている。
「去年（のドウデュース）も皐月賞で１番人気になって３着で、ダービー（を勝った）。スペシャルウィーク（９８年）もタニノギムレット（０２年）もそうだった」
―“テン乗りは勝てない”ジンクスがあるが。
「去年だって、ダービー６勝する人なんていないって（言われた）」
―今年のダービーにかける思いは？
「７勝目、なったらいいね。怒られるわ、周りに。ええかげんにせえ、言われるわ（笑い）」
◆テン乗りの日本ダービー 過去５年で馬券対象になったのは１８年３着のコズミックフォース（石橋脩、１６番人気）だけ。１９年はサートゥルナーリアが皐月賞Ｖ時の鞍上、ルメールが騎乗停止となり、レーンが初コンビを組んで挑んだが、単勝１・６倍の１番人気で４着に終わった。武豊のダービーのテン乗り騎乗は過去６度。皐月賞馬ハクタイセイで挑んだ９０年の５着が最高成績。
▽武豊のダービーテン乗り
９０年ハクタイセイ ５着
９５年オースミベスト ８着
０７年タスカータソルテ １１着
１１年ロッカヴェラーノ １５着
１２年アルフレード １３着
１９年メイショウテンゲン１０着
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