◆第68回有馬記念・G1(12月24日、中山競馬場、芝2500メートル、良)
武豊が負傷し、天皇賞・秋を乗り替わりとなった翌日。心配でいてもたってもいられず、電話をかけた。「また頑張るわ。早く治すわ」。想像より明るい声。すでに前を向いていると分かり、ほっとしたのを覚えている。
しかし、治りが遅いために復帰予定が延期。ドウデュースの秋2戦目だったジャパンCにも騎乗できなかった。ジャパンCの週、もう一度電話で話す機会があった。「やれることはやってるけど…」。1か月前より、声のトーンが低い。先の見えない状況での治療。計り知れない苦しさがあったはずだ。
今月8日に調教騎乗を再開した際、やっとドウデュースとのコンビが復活ですね、と声をかけると、武豊は「まだ分からんで」と言った。「万全じゃなかったら乗らない方がいい」。はやる気持ちを見せず、自らが完全体になるまで復帰しないという決意は、ドウデュースを含めた全ての馬への敬意の表れだったのだろう。
その日、もう一つ、どうしても知りたかったことを尋ねた。休養中、騎乗予定だった馬が勝ったとき、どう感じたのか。「勝ってほしいと思うけど、さみしい。自分がその場にいないさみしさがある」。誰よりも勝利を追求してきたからこその本音だろう。「16番人気でも出たい」と公言してきた有馬記念で、「最強のパートナー」であるドウデュースと復活V。きっと、レジェンドも苦難の先にあった喜びをかみしめているはずだ。(水納 愛美)