【スプリンターズS】新短距離王はルガル!高松宮記念は骨折で10着…鮮やか復活劇に「本当に幸せ」7年目のホープ男泣き

最後の直線で力強く抜け出すルガル(手前=カメラ・高橋 由二)
最後の直線で力強く抜け出すルガル(手前=カメラ・高橋 由二)
ルガルとG1初制覇を果たし、感極まる西村淳
ルガルとG1初制覇を果たし、感極まる西村淳
秋の短距離王となったルガルの(左から)杉山晴調教師、西村淳ら関係者
秋の短距離王となったルガルの(左から)杉山晴調教師、西村淳ら関係者

◆第58回スプリンターズS・G1(9月29日、中山競馬場・芝1200メートル、良)

 秋G1シリーズの開幕戦は涙のリベンジ―。第58回スプリンターズSは29日、中山競馬場で16頭が争い、9番人気のルガルが、前半3ハロン通過がレース史上最速となった超ハイペースを3番手から押し切り、秋の短距離王の座に就いた。1番人気を背負った高松宮記念で骨折し10着に惨敗して以来だった4歳牡馬が、西村淳也騎手(25)=栗東・フリー=とともにG1初制覇を飾った。

 胸の奥底からこみ上げる喜びで全てが吹き飛んだ。ルガルとともに真っ先にゴール板を駆け抜けた西村淳は、震える左手で会心のガッツポーズだ。あふれる涙がこぼれないように、ウィニングランでは何度も天を仰いだ。デビュー7年目、24度目の挑戦で初めてG1ジョッキーの仲間入り。「気持ちいいですし、本当に幸せですね」と、しみじみ喜びをかみ締めた。

 無我夢中だった。いつもゲート内でうるさいタイプで、スタートを決めることに意識を集中していた。五分の発馬から積極的に3番手を確保して、前半3ハロン通過32秒1というレース史上最速(G1昇格の90年以降)の激流をものともせず、直線では堂々と抜け出して2着のトウシンマカオの猛追を首差で封じた。鞍上は「覚えてないんですよね。競馬自体の記憶がなくなることは今までなかったんですが…。一生懸命だったんでしょうね」と苦笑いも、それだけ歓喜は大きかった。

 前走の高松宮記念は1番人気を裏切る10着に大敗。レース後には左橈側(とうそく)手根骨と左第3手根骨の骨折が判明した。重賞初制覇となった今年1月のシルクロードSで本格化の手応えをつかんでいた杉山晴調教師も、強く責任を感じていた。「スプリンターズSにかける思いは並々ならぬ決意でした」と明かす。膝の骨折で6か月以上の休養を要するところを、馬がうまくリハビリに対応し、気持ちの面でリフレッシュできたことも勝因と指摘した。

 人馬一体で雪辱を果たして、西村淳が誰よりも感謝するのは女手ひとつで育ててくれた母だ。今は栗東・浜田厩舎で助手の兄・勇哉さんの影響で騎手を志し、小学校5年から乗馬を習い始めるなど常に夢を後押ししてくれた。「中学1年くらいから帰る時間が遅くて、一緒にご飯を食べる時間がなかった。大変だったと思う。今日は泣いているでしょうね」と、感謝の言葉があふれた。

 伸びしろたっぷりの4歳馬と25歳のホープには、さらに夢が広がる。「いろいろ選択は海外を含めてある」と杉山晴師が言えば、西村淳も「技術のないジョッキーをG1で勝たせてくれるだけの馬ですしね」と照れながらたたえた。短距離界に強烈な“新風”が吹いた。(坂本 達洋)

 ◆ルガル 父ドゥラメンテ、母アタブ(父ニューアプローチ)。栗東・杉山晴紀厩舎所属の牡4歳。北海道浦河町・三嶋牧場の生産。通算13戦4勝。総獲得賞金は2億9486万円。主な勝ち鞍はシルクロードS・G3(24年)。馬主は江馬由将氏。

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