平成最後の…、令和初の…、の活字が紙面をにぎわせているが、競馬界でそのような肩書を持つ1人のホースマンがいる。結果的に関東エリアで昭和最後の重賞となった1989年(昭和64年)1月5日の金杯をニシノミラーで勝利した武藤善則騎手(現JRA調教師=52)だ。
騎手生活15年で通算154勝したが、重賞勝利は昭和最後の金杯で挙げたこの1勝にとどまった。2001年に調教師試験に合格し騎手を引退、03年に厩舎(きゅうしゃ)を開業し16年目を迎える。ホースマンにとって誰もが憧れる日本ダービーに騎手としては1度も騎乗機会が無かったが、今年の日本ダービーにナイママを出走させた。09年のマッハヴェロシティに続き2頭目の出走だ。
その武藤善則調教師を父に持ち、今売り出し中なのが長男の武藤雅騎手(21)だ。デビュー3年目の雅騎手は幼少期から馬との環境に慣れ親しみ、何時しか父の背中を追い騎手への道を志した。2013年中学卒業と同時に、藤田菜七子騎手(21)などと一緒にJRA競馬学校の騎手課程を受験したが、合格者の中に武藤雅の名前は無かった。しかし雅に「挫折」という文字はなかった。1年後に再チャレンジするため一般の県立高校へ入学して馬術部に所属して騎乗技術を磨き、1年遅れで競馬学校に入学した。
3年後の2017年に美浦の水野貴広厩舎所属で騎手としての一歩を踏み出した。父と同時期に騎手として活躍した水野調教師からレース・調教での騎乗技術、私生活まで厳しい教えを受け、他の厩舎からの騎乗依頼も増し1日12レース全て騎乗した経験もある。すべてではないが新人や若手騎手は本場(東京・中山・京都・阪神)で開催されている以外の第3場(福島・新潟・中京・小倉)で騎乗し勝利を狙うが、雅騎手はベテラン騎手や短期免許で来日している外国人騎手と一緒に主戦場で戦い1年目に同期騎手トップの24勝を挙げ新人賞を獲得した。
騎乗馬が増えると共に報道陣から取材される事が多くなり、質問にもひとつひとつ丁寧に答え記者からも好印象を持たれている雅騎手に朗報が届いた。オークスで騎乗予定のジョディーが抽選をクリアしクラシックレース初騎乗(G1レースは2度目)が決まった。東京2400メートルのスタート地点は観客席の前。ファンファーレや大歓声を身近に感じ先行馬のジョディーにとって1番枠から絶好のポジションでスタートを切った。積極的なレース展開で観客を沸かせたが結果は14着、クラシック初参戦の感想を聞くと「緊張することなく他のレースと同様に乗ることが出来ました」と冷静に振り返った。
そのジョディー&雅コンビにまた朗報が届いた。7月6日にアメリカで行われるベルモントオークス(米G1 芝2000メートル)の参戦が決まった。もちろん初めての海外レース参戦だ。昨年、骨折して騎乗出来なかった時に競馬発祥の英国に飛びアスコット競馬場とニューマーケット競馬場を見学した。「日本の競馬場と違いスケールの大きさを実感しました」と語り海外レース参戦への意欲を見た矢先の朗報。「未熟な自分に経験させてくれる馬主さんや先生(戸田調教師)に感謝しかありません」と胸を膨らませた。
さらに、12日に行われた関東オークスに父の管理馬ラインカリーナで重賞レース初勝利を挙げた。父は「自分の管理馬で雅が初重賞を挙げられ感無量です」。雅騎手は「少し恩返しが出来たと思います」と満面の笑みで答えた。最大の恩返しは日本ダービーを制すること、それも父の管理馬で…。
雅騎手の2歳上の姉、彩未さん(23)は8歳の時からキッズモデル、アイドル歌手として芸能界で活躍。語学留学のため2016年に活動を休止していたが、昨年帰国し現在はインディーズとしてライブ活動をしている。今後も武藤ファミリーから目が離せない。(記者コラム・池内 雅彦)