引退した往年の名馬などにスポットを当てた夏競馬企画「なつウマ」がスタートします。1回目はレイクヴィラファーム(北海道洞爺湖町)で余生を過ごすメジロドーベル(28歳)。現役時代にG1・5勝を挙げた名牝は、母親としても多くの産駒をターフに送り出してきた。スマホアプリ「ウマ娘プリティーダービー」で「クールビューティー」の異名を取るヒロインの現在に迫った。
名門メジロ家の「ベルちゃん」は一頭でぽつんと草を食んでいた。羊蹄山を望める広大な洞爺本場の放牧地で、早生まれの当歳馬とその母12組24頭が密集するなか、つかず離れずの絶妙な距離で別格の存在感を放っている。
「自分から無駄に寄っていかないし、距離感がすごく賢い。群れの空気を読む力はすごい」と担当する的野裕紀子さん(38)。スマホアプリ「ウマ娘プリティーダービー」では「クールビューティー」の異名を取る鹿毛の28歳。約570キロの馬体はツヤツヤ。食欲も旺盛で元気いっぱいだ。
時折親元を離れて寄ってくる子馬とコミュニケーションを図ることもある。離乳期が来ても、親がいなくなった子馬のケアも欠かさない面倒見の良さは抜群。現役時代はエリザベス女王杯連覇などG1・5勝を含む21戦10勝を誇った人気馬が、毎年当歳の群れを精神的に支えるリードホースとして活躍する。
昨年、母メジロオードリーを亡くしたドレフォン産駒の女の子を一頭で群れに入れた際のシーンは印象的だったという。「真っ先にそこに行ってくれたんです。オードリーはすごく強い馬で、ドーベルに対してキツイところも見せていたんですけど」。母を失った迷い子を我が子のように受け入れる姿勢は、人間社会と共通するのかもしれない。
競走馬、繁殖牝馬、そして今は第3の“人生”のまっただ中。ウマ娘では「ピアノとお遊戯が幼稚園の先生並み」とされ、保育士的な才能までキャラクターに組み込まれている。「みんなに目標にしてほしいですね。ドーベルはこの群れと一緒にいるのが一番生き生きしています」。将来のG1馬を育てる“ビッグマザー”はまだまだ北の大地で健在だ。(恩田 諭)
◆メジロドーベル 1994年5月6日、北海道伊達市の(有)メジロ牧場の生産。牝28歳。父メジロライアン、母メジロビューティー(父パーソロン)。美浦・大久保洋吉厩舎の管理馬として96年にデビュー。阪神3歳牝馬S(現阪神JF)、97年にはオークス、秋華賞を制覇。98、99年にはエリザベス女王杯を連覇した。99年に現役引退し、繁殖牝馬(16年に引退)に。産駒の出世頭は4勝を挙げたホウオウドリーム。通算成績21戦10勝。獲得賞金は7億3342万2000円。馬主はメジロ商事(株)。
◆レイクヴィラファーム 11年に解散したメジロ牧場の敷地と繁殖牝馬を引き継ぐ形で生産牧場としてスタート。洞爺本場(北海道洞爺湖町)と伊達分場(北海道伊達市)の2か所からなる。生産馬ではショウナンラグーンが14年青葉賞で重賞初制覇。G1はグローリーヴェイズが19、21年の香港ヴァーズを2度制覇。洞爺本場は約70ヘクタールの広大な敷地に約50頭の繁殖牝馬とその子がいる。