【天皇賞・春】「長距離界の帝王」とデビュー13年目の騎手が人馬G1初V「今まで生きてきたなかで一番うれしい」

G1初制覇を果たしたテーオーロイヤルと菱田
G1初制覇を果たしたテーオーロイヤルと菱田

◆第169回天皇賞・春・G1(4月28日、京都・芝3200メートル、良)

 希代のステイヤーが誕生した。第169回天皇賞・春・G1は28日、京都競馬場で行われ、1番人気のテーオーロイヤルが2馬身差をつけG1初制覇。年明けから芝3000メートル以上の重賞3連勝での制覇は、84年のグレード制導入後初の快挙となった。デビュー13年目の菱田裕二騎手(31)=栗東・岡田厩舎=は、師匠の管理馬で悲願の初タイトルをつかんだ。

 20年分の思いが詰まっていた。ラスト300メートル。早々と先頭に立った菱田とテーオーロイヤルはさらに加速した。「来ないでくれ」「頑張ってくれ」。必死に右ステッキを入れる。昨年4月の改修後、最多となる6万479人の大歓声も全く耳に入らない。必死だった。最後まで脚いろは鈍らず、2馬身差をつけての完勝。人馬ともに初G1制覇だった。

 運命を変えた舞台の中心に自分がいた。競馬に初めて触れた04年の春の盾。「人生で一番の衝撃を覚えた光景だったかも」と振り返る京都競馬場の雰囲気が、騎手を志すきっかけだった。勝負どころの4コーナーでよみがえった懐かしい記憶。「20年前の見に行った時の自分に『見といてくれ』という気持ちでした。あの時の自分に『ありがとう』と言いたい」と口にした。

 検量室前では開業22年目で同じくJRA・G1初制覇の師匠の岡田調教師が待っていた。「先生、ありがとうございました」「よくやった」。2人は固い握手をかわした。騎手デビュー13年目。多くの言葉はいらない。しかし、岡田師はその後に声を詰まらせて、「言葉にならないですね」。厳しくも温かい師弟関係で頂点へ駆け上がった。

 2歳の入厩当初、後肢の弱さから調教では下り坂でバランスを崩すほどの馬だった。鞍上は「騎乗していて、怖さすら感じる体の状態でした」と振り返る。5歳時には右後肢を骨折し、今もボルトが入っている状態。しかし、この日は直線手前の下り坂での滑らかな加速が勝利を引き寄せた。「競走馬としてはしんどかったと思うが、そこを経て、成長してくれた。自分の常識では分からない、すごい馬」と2年前に3着の雪辱も晴らしたパートナーに最大の賛辞を贈る。

 前日に騎手の先輩である四位調教師にアドバイスを聞くなど、万全の準備で大一番へ臨んで重圧に打ち勝った。ダイヤモンドS、阪神大賞典と、年明けから3000メートル以上の重賞3連勝での春の盾制覇は史上初。歴史に名を刻んだステイヤーを導いての勝利にも、「今まで生きてきたなかで一番うれしいです。僕自身はもっとうまくなりたいし、ロイヤルはもっと強くなってくれると思います」と先を見据えた。人馬が紡ぐ成長の軌跡はこれからも続いていく。(山本 武志)

 ◆テーオーロイヤル 父リオンディーズ、母メイショウオウヒ(父マンハッタンカフェ)。栗東・岡田稲男厩舎の牡6歳。北海道浦河町・三嶋牧場の生産。通算18戦8勝。総獲得賞金は5億1826万6000円。重賞4勝目。馬主は小笹公也氏。

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