
◆第89回日本ダービー・G1(5月29日・芝2400メートル、東京競馬場)
3歳馬7522頭の頂点を決める第89回日本ダービー・G1(29日、東京)は皐月賞からの転戦組に無敗馬が存在せず、例年にも増して実力伯仲の頂上決戦となった。ジオグリフ、イクイノックスを管理する「今週のキーマン」木村哲也調教師(49)=美浦=には、恩田諭記者が展望を聞いた。
―皐月賞はジオグリフ1着、イクイノックス2着のワンツーフィニッシュでした。
「ジオグリフが勝ったうれしさも当然あります。もう一頭は…。あまり振り返りたくないですね」
―「ジオグリフの名誉を回復したい」という願望通りのVでした。
「レース翌日に馬服を脱がせたら、脂肪が落ちて、あばらが見えました。G1を勝つって大変なんだなと」
―ジオグリフの第一印象は覚えていますか。
「骨量、ボリュームがすごくあって、人間で言うと健康優良児。冬なのに半袖、短パンで外走っているみたいな」
―イクイノックスはどうでしょう。
「体の線も毛づやもいつもきれいで、黒光りしていました。ただ、今でも人を乗せると背腰に負担がかかる。牝馬を扱っているような感じです」
―キタサンブラック産駒のイクイノックスはさておき、ジオグリフは(6~7ハロンで活躍した)父ドレフォンの適性から、日本ダービーの2400メートルは長いのではと考える人もいます。
「誰しも、短い距離という先入観でスタートしたと思います。彼は自分の実力でそれを覆した。適性があるのかないのかは分からない。でも、迷うところはない」
―一競馬ファンとして記憶に残るダービーはありますか?
「やっぱり(17年の)レイデオロのV。(ダービー初勝利の)藤沢和雄先生(元調教師)は『一勝より一生』と常々おっしゃっていて、勝とう勝とうと何頭も出してではなく、自然とひと枠を使って勝った。『ああ、良かった』と感じる人が、とんでもなく多かったのでは。(今年の)皐月賞後には藤沢先生から花を頂いた。お礼の電話をしたら『お前ちゃんとやったらできるんじゃねえか』と言われました」
―今年の日本ダービーは約7万人のファンが駆けつけます。
「ダービーの日に電車で府中本町の駅を降りると、競馬場に向かうロータリーにファンが徹夜で並んでいる。あれを見ると『俺もっと仕事しないといけないな』って。魂を揺さぶられます」
―ステルヴィオ、ダーリントンホールに続き、3度目のダービーで初制覇を狙います。
「ジオグリフは自信を持った歩きで、毛づやが良くなっています。皐月賞のパフォーマンスで喉鳴りの影響があるとジャッジする人がいますかね。当然2冠を目指します。イクイノックスはハードワークになると内臓面の疲れが発疹で表面化する。でも、今回はそれがない。今度はイクイノックスの名誉を回復したい」
◆木村 哲也(きむら・てつや)1972年11月16日、神奈川県生まれ。49歳。神奈川大工学部建築学科卒。アイルランドの牧場勤務を経て、00年にJRA競馬学校厩務員課程を卒業。美浦の佐藤征助厩舎などで厩務員、助手などを務め、11年に開業した。初出走は11年7月10日の中山2Rスターリーベイ(14着)、初勝利は同年8月13日の新潟8Rレッドプラネット。JRA通算2315戦306勝で、重賞はG1・2勝含む18勝。