◆第166回天皇賞(秋)・G1(10月30日、東京・2000メートル)=10月25日、栗東トレセン
トップホースが集結する中央競馬の大一番、第166回天皇賞・秋・G1は30日、東京競馬場で行われる。傑出馬不在だけに、伏兵の台頭には十分な警戒が必要な一戦。怖いのは、小田切光オーナー(49)が所有するカラテ(牡6歳、栗東・辻野厩舎)だ。光氏の父は、珍名馬で有名な有一オーナー(79)。独特のネーミング術を先代から受け継いだ2代目は、父もまだ果たしていない盾制覇へ意欲を燃やす。
今なお現役のオーナーであり続ける父・有一氏の夢を、息子・光氏も引き継いだ。そのきっかけは、父の所有馬が初めてG1を勝った第46回オークス(1985年)。旧約聖書から名付けられたノアノハコブネの激走だった。今なお語り継がれる単勝21番人気での戴冠だ。
「ノアノハコブネのオークスで、音無調教師が騎手時代に初めてG1を取りました。長い時を経て、音無厩舎の初G1がオレハマッテルゼ(2006年高松宮記念)というドラマ、歴史、人間関係に感動したのが馬主になったきっかけです」
そして、ついに2代目にも世紀の大駆けを成し遂げるチャンスが到来した。それが美浦・高橋祥厩舎で18年8月にデビューしたカラテだ。今春に高橋祥調教師が定年引退し、栗東・辻野厩舎に転厩。親交のあった野田善己オーナーが辻野厩舎に預託していて、紹介してもらった。
「高橋先生が大事に大事にレースに使ってくれたから今があると思っています。(前走の)新潟記念を勝って、高橋先生から電話をもらって、泣きそうになりました。カラテは爪が悪く、かなり苦労しました。いろいろ調べたら、辻野厩舎のロータスランドも爪が悪かったのを治して、21年の関屋記念で重賞初制覇。その時の2着がカラテで、その“流れ”もすごいんですけど…」
紹介してもらった厩舎が期せずして本格化を後押し。縁に恵まれている光氏は、鞍上にも生きのいい若手を得た。関東リーディング5位(25日現在)と躍進中の菅原明騎手は弱冠21歳。昨年2月の東京新聞杯では、人馬ともに重賞初V。自身にとっても初のタイトルだった。
「何とか若手騎手を盛り上げていきたい。東京新聞杯を勝つ前に、周りから『重賞から乗り替えていった方がいい』と言われましたが、『もし凱旋門賞に行けることになっても、菅原君で行く!』と決めていました」
オーナーの期待通りに、カラテも菅原明も順調に経験を積んだ。前走の新潟記念では2000メートルをクリアする重賞2勝目を挙げ、同じ距離&左回りの天皇賞・秋へ向け、高まる期待を抑えられない。
「天皇賞…夢のようですよね。カラテ君なら必ず感動の走りを見せてくれると思います。海外で日本の馬と分かってもらえるように『カラテ』と名付けました。カラテ対カンフー(香港映画で登場)の戦いです」
天皇賞・秋の走り次第では、香港国際競走(12月11日、シャティン競馬場)での海外挑戦も視野に入るオーナー。その表情はやる気に満ちあふれていた。人気薄必至のカラテだが、“ノアノハコブネの再来”に要警戒だ。(玉木 宏征)
◆日本での馬名決定の規則 カタカナで2~9文字。ブランド名、商品名など宣伝目的での命名はできない。GIなどの勝ち馬と同名も禁止。公益財団法人ジャパン・スタッドブック・インターナショナルが審査、管理している。
◆子ども食堂運営など「周りが笑顔になれたら」
〇…珍名馬で競馬ファンを喜ばせている光氏は、子どもを喜ばせることにも尽力している。「子どもたちの笑顔のために」をテーマに掲げ、子ども食堂などの事業を行う一般社団法人ハートリボン協会の理事としても精力的に動く。「周りの人たちが笑顔になれたら、それが一番の幸せです。子どもたちの笑顔につながるようなことができないかなと日々、一生懸命活動しています」と話した。
◆小田切 光(おだぎり・ひかる)福岡県出身。49歳。九州馬主協会常務理事(国際交流委員会委員長、研修委員、ファンサービス、地方競馬、九州産馬支援委員)。日本馬主協会連合会理事(総務委員)。趣味は競馬とゴルフ。冠名コパノでおなじみの小林祥晃氏とは10年以上の付き合いで「東京のお父さん」と慕う。「競馬の師匠」はアカイイトなどを所有する岡浩二オーナー。「尊敬していますし、お二人のようになれたらという憧れですね」。自身のツイッター(@Xl2dEieZniwWXrC)で、カラテ情報の発信にも力を入れている。