5月12日のヴィクトリアマイルを単勝208・6倍で制したテンハッピーローズ(牝6歳、栗東・高柳大輔厩舎、父エピファネイア)。レース後、SNSでは「あの調教では買えない」などの悲鳴が殺到した。最終追い切りは栗東・坂路を単走で55秒0―12秒4。頭を左上に高く向け、残り1ハロンを過ぎて手前を替えるとフラフラしていた。
騎乗していた調教パートナーの平順太朗助手(33)も「(SNSを)見ましたよ!(追い切り映像を)見直したら、乗っていた感覚以上に傾いていましたね。調子が良過ぎたんだと思います」と苦笑いするしかない。前哨戦の阪神牝馬S(6着)の時も傾いていたが、「今回は抑えきれないぐらいでした。坂路では右にもたれるのが癖なんです。もともと口向きが難しく、追い切り以外では右ラチ沿いを走らせています。(追い切り翌々日の)金曜もラチ沿いを走らせたんですが、まっすぐに走れてすごく良かったんです。(厩務員の)篠田さんも『すごくいいね』と。今までで一番でした」と振り返る。
異色の経歴の持ち主だ。平助手は中学3年生のとき、JRA競馬学校騎手課程に合格。川須栄彦騎手、高倉稜騎手、水口優也騎手らが同期だったが、2年生の時に体重が増えて断念し、退学した。
その後、北海道・加藤ステーブルに3年間務め、同僚だった桧森高史氏と千葉県富里市にヒモリファームを開場。今年の3月にオープンした「NEW ERA」(千葉県香取市)の前身となる育成牧場だ。「預託馬3頭から始めて、(5年後に)僕が辞める頃には30頭まで増えていました」と経営陣の経験もした。
26歳だった2017年にJRA競馬学校厩務員過程に合格。18年11月から、同年に開業した栗東・高柳大厩舎に配属され、攻め専として厩舎を支えてきた。21、22年と、かしわ記念・交流G1で2年連続2着だったソリストサンダーの調教も担当していたが、自身が調教パートナーの馬でのG1制覇は初めてだった。「トレセンに入って5年半。こんなに早く色々な経験をさせてもらい、高柳先生も厩舎のみんなも優しくて、本当に楽しく仕事させてもらってます」と感謝する。
ヴィクトリアマイル当日は、白のYシャツに赤と青のネクタイを着用。天白泰司オーナの勝負服とまったく同じ色使いだった。「勝負だったのでは?」と水を向けると「昔、青のスーツに合うように買ったんですが、ホントにたまたまです」と笑う。スタンドで声を枯らして応援し、「階段から降りる時は泣いていました。両親にもだいぶ迷惑をかけましたから」。紆余(うよ)曲折の経歴が走馬灯のようによみがえった。秋はブリーダーズCマイル(11月2日、米デルマー競馬場・芝1600メートル)が目標。さらに感動の涙を流せるよう、日々精進していく。(中央競馬担当 玉木 宏征)