◆アイリッシュチャンピオンS・G1(9月14日、アイルランド・レパーズタウン競馬場・芝2000メートル)
JRA海外馬券発売対象レース、アイリッシュチャンピオンS・愛G1(レパーズタウン競馬場・芝2000メートル)が、日本時間14日(23時25分発走予定)に行われる。欧州の強豪が集まる一戦に、今年の日本ダービー3着のシンエンペラーを送り出す矢作芳人調教師(63)=栗東=。まずは挑戦者としての参戦を強調しながらも、その後の凱旋門賞、ブリーダーズCなど今秋の海外ビッグレースについては「全身全霊で取りに行く」と決意を語った。
誰よりも格の重みを感じていた。矢作調教師がシンエンペラーで愛チャンピオンSに初参戦する。凱旋門賞を見据えた始動戦だが、引き締まった表情で切り出した。
「前哨戦と言うには失礼なレース。日本人だけ凱旋門賞を特別視しているわけで、ヨーロッパの中では非常に重要なレース。正直、凱旋門賞馬より愛チャンピオンSを勝った馬の方が種牡馬価値は高い。2000メートルと2400メートルで路線は違うが、ある意味チャンピオン決定戦です。今年は非常に強い。凱旋門賞より強いと思います。個人的にはエコノミクス(※1)がすごく気になる。エイダン(・オブライエン調教師)の3頭はもちろんだけどね」
壁は高い。それでも挑む。1歳時に仏アルカナ社のセールでほれ込み、藤田晋オーナーに購入してもらったシンエンペラーは凱旋門賞馬ソットサスの全弟。この大舞台を使うのは、今も変わらぬ高い期待の裏返しでもある。
「みんな格上の馬。どの馬が怖いとかじゃなくて、うちは挑戦者です。この馬には来年以降もある。それを踏まえ、強い相手と戦うことで成長させたい。色々な意味で経験値は絶対に上がる。主催者側からは何年も前から熱心に勧誘されていたのもありますけどね」
海外からも注目を集める世界の「YAHAGI」が欧州遠征を決めたのは日本ダービー3着直後。背景には強い思いがある。
「自分の見立てが正しければ、ヨーロッパ向きの走りをしているのは間違いない。そのなかで正直、決して上手に乗ったとは思えないなかでの3着。全体的な能力、総合力が高いと思っています」
中間は7月30日に帰厩。栗東で乗り込み、8月26日に出国した。現在はシャンティイの清水裕夫厩舎(※2)を拠点に調整を続ける。
「急上昇はしていないけど、徐々に上がっているのは確か。ダービー後にだいぶん緩めましたからね。その先に凱旋門賞を中2週で使うから100%までは上げられないけど、恥ずかしくない競馬をしたい。もともと、いい馬なので体に大きな変化はないけど、メンタルで子供っぽいところは抜けてきたかな」
シンエンペラーだけではない。ケンタッキーダービーで3着だったフォーエバーヤングはジャパンダートクラシック(10月2日、大井)からブリーダーズCクラシック(11月2日、デルマー競馬場)を目指す。世界の大舞台へ、管理馬を次々と送り出す。
「もちろん、こういう年をつくろうと毎年頑張っているわけだけど、なかなか凱旋門賞とBCクラシック両方に出れるなんて、俺の現役生活でもうないかもしれない。とにかく、全身全霊を込めて取りに行く。その両方のレースを使うのは世界中でエイダン・オブライエン(調教師)と俺しかいないと思うよ。おそらくね」
勝負の秋。世界の「YAHAGI」の譲れない戦いがもうすぐ始まる。(取材・構成、山本 武志)
※1 英国の世界的な名調教師ウィリアム・ハガス師が管理するナイトオブサンダー産駒の3歳牡馬。昨年11月のデビュー戦は4着も、今年は4月の未勝利から英仏G2・2勝を含む3連勝中で通算4戦3勝。G1初挑戦、一線級の相手とも初対戦だが、英ブックメーカー「ウィリアムヒル」の愛チャンピオンS前売りオッズで1番人気となっている。
※2 17年に仏で調教師試験に合格し、18年に同国競馬の中心地シャンティイで開業。22年凱旋門賞に挑んだディープボンドやステイフーリッシュなど日本勢の現地滞在先になってきた。
◆矢作 芳人(やはぎ・よしと)1961年3月20日、東京都生まれ。63歳。05年3月に厩舎を開業。14、16年と20~22年に最多勝利調教師、19~23年に最多賞金獲得調教師に輝く。JRA通算878勝で、重賞はG1・14勝を含む58勝。また、海外でもG1・8勝を含む重賞14勝。日本で初めてブリーダーズC、サウジCを制した。