2020年の春のクラシックは牡牝ともに、無敗の2冠馬が誕生。3冠を目指すべく、それぞれが夏を過ごしている。皐月賞、日本ダービーを完勝したコントレイル(栗東・矢作厩舎)は鳥取県の大山ヒルズで秋への準備を整えている。15年ぶり史上3頭目の無敗の3冠へ向け、貴重な“夏休み”を過ごすディープインパクト産駒の今を、大山ヒルズの斎藤慎ゼネラルマネジャーに聞いた。(取材、構成・玉木 宏征)
無敗で2冠を制したコントレイルは、鳥取の大山ヒルズでご褒美の“夏休み”を満喫している。
斎藤慎GM(以下、斎)「こちらに帰ってくると、競馬ではないのがわかるので、馬房の中では、飼い葉を食べて、寝るの繰り返しです。起こそうとしても起きない(笑い)。競馬との切り替えがしっかりできているので、とてもリラックスしています」
1800メートルの新馬戦(阪神)で引っかかっていた馬が日本ダービーの2400メートルを克服できたのも、頭の良さがあってこそ。2歳時はややピッチ走法だったが、ダービーではフォームが変わっていた。
斎「普通でしたら、新馬戦では物見したり、周りを気にしたりしますが、かなりハミがかりと行きっぷりが戻ったので、長めの距離では難しいと思っていました。でも、競馬で使うごとにジョッキーの指示を聞いて、折り合いがつくようになってきました。さらに、ゴーサインを出した時にストライドが伸びるようにもなってきましたね。皐月賞では、行き脚がつかず、内で包まれる形になりましたが、少しの隙間でも入っていけるピッチ走法的な走りと、追い出してからのストライドが大きくなったことが成長の証です」
秋は神戸新聞杯(9月27日、中京)→菊花賞(10月25日、京都)のローテーションが決まっている。3000メートルへ向け、意識した調整などはあるのだろうか。
斎「特にありません。いつも通りリラックスさせながら負荷をかける調整です。テンションも上がっている様子もありませんし、馬自身もこちらで何をしたらいいか、わかっています。デビューしてからは、同じスタッフが乗っていますが、この馬のことをよく理解してくれています。ただ、ハミをかけて乗るだけではなく、勇気を持ってしっかりハミを譲る調教もしてくれています」
1時間に及んだ取材中も、ジョークを交えて、終始穏やかな斎藤GM。現場のトップがピリピリしないので、スタッフも馬もリラックスできる。
斎「目標は長い距離のレースですし、気持ちに遊びがあるぐらいの方がいいと思います。走りに集中させるための馬具などは、今は必要ありません。とにかくいつもと同じ、普通の状態で栗東トレセンに戻せれば問題ないと思います」
シンボリルドルフ、そして父ディープインパクト以来、史上3頭目の無敗の3冠馬誕生へ、順調に夏を過ごしている。
〈取材後記〉 牧場取材は朝8時スタートのため、岡山から約2時間半、特急やくもに揺られて米子に前泊し、当日はタクシーで訪問した。「えっ、バスの方が楽でしょう(笑い)」と斎藤GM。帰りは車で10分ほどの高速バスの停留所まで送ってもらった。180頭を預かる現場のトップの何気ない心づかいは、スタッフ、馬にもいい影響を与えているのは間違いない。
「チャレンジングスピリット」の理念のもと、オーナーブリーダーの利点を生かし、新人スタッフも良血馬にバンバン乗せる。デビュー前のコントレイルにも、40人ほぼ全員が乗ったことがあるという。「やっぱり、応援のしがいも全然違うと思います。いい馬の背中を知らないとうまくならない。彼らの財産になってくれれば」と同GM。大山ヒルズには、そんな温かく心地いい空気が流れている。ノースヒルズ軍団の近年目覚ましい活躍の一因を垣間見た気がした。