将来を暗示するかのような勝利だった。デビュー1年目の横山琉人(18)=美浦・相沢郁厩舎=が、4月10日の中山1Rでノアファンタジー(牝3歳、美浦・大江原哲厩舎)に騎乗し、うれしい初勝利を挙げた。
デビュー25戦目、新人8人の中で7番目の初勝利だった。「同期が勝っていたので焦りはありました。周りからは自分のペースでと言われていたけど、やっぱり勝ててうれしいですね」と満面の笑みを浮かべたが、その母メジロベイシンガーが現役時代に新潟ジャンプS・JG3を勝つなど障害で活躍していたことに話が及ぶと、さらに言葉に力がこもった。「何かの縁ですかね。それを聞くとなおさら勝てて良かったです。もともと障害レースばかり見てきましたし、障害レースに乗りたいんです」
父は障害で数々の記録を打ち立てた横山義行元騎手。横山琉は07年の中山大障害で、父が手綱を取ったメルシーエイタイムが勝利するシーンを現地で観戦し、目に焼き付けたという。「小さい頃から父のレースを見て、障害って格好いいと思ってきた。いつか自分も」と心を躍らせてきた少年が、騎手を目指すのは必然だった。小3時に乗馬を始め、ケガの影響で引退した父の引き留めもあったものの情熱が冷めることはなく、そのまま競馬の世界へ飛び込んだ。
同期は日本ダービーや凱旋門賞など平地の大舞台に夢をはせるが、横山琉は「いつか中山大障害を勝ちたい」と話し、同期とは異なる夢を抱く。大好きな馬も父が主戦を務め、中山グランドジャンプを連覇するなど障害界で一時代を築いたゴーカイ。その現役時代にはまだ生まれてはいなかったにもかかわらず、残された動画などを何度も見て好きになったと話す。「障害を飛ぶたびに、歓声と拍手が沸くんですよね。それがすごく好きなんです」。もちろん、「相沢(郁)先生には、減量があるうちは平地で技術を磨きなさいと言われています。その後は平地、障害の両方で頑張っていきたいですね。両方でG1を取れたら最高です」と、「二刀流」をこなしながら自身の道を追求していくつもりだ。
デビュー当時から「障害で」と言う騎手の存在は、今はまだ「異色」かもしれない。ただ、16年に藤田七菜子がデビューし、今年はその姿にあこがれた古川奈穂、永島まなみがデビューした。4月17日の新潟7Rでは、3騎手による史上初の女性ワンツースリーもあった。誰かが道を開けば、「特別」が特別でなる時がきっと来る。横山琉が父の背中を追ってきたように、いつか横山琉の背中を追う少年が現れるかもしれない。新たな可能性が広がるか、注目したい。(中央競馬担当・松末 守司)