JRA史上初の無敗3冠牝馬デアリングタクト引退 杉山晴調教師「胸が詰まる思いです」

松山と秋華賞で牝馬3冠を達成したデアリングタクト
松山と秋華賞で牝馬3冠を達成したデアリングタクト

 JRA史上初の無敗3冠牝馬に輝いたデアリングタクト(牝6歳、栗東・杉山晴厩舎)が現役を引退することが6日、分かった。馬主のノルマンディーオーナーズクラブから発表された。右前肢の体部けいじん帯炎を再発したもの。今後は北海道新ひだか町の岡田スタッドで繁殖入りする。

 直線一気の豪脚でJRA史上初となる無敗で牝馬3冠を達成。ターフを鮮やかに彩ったデアリングタクトが競走馬生活に終止符を打つ。

 ノルマンディーオーナーズクラブのホームページによると、5日の調教後に跛行(はこう)が見られ、レントゲンとエコー検査を実施。右前肢の体部けいじん帯炎の再発と診断され、繁殖入りが決まった。「いずれこういう日が来ると分かっていましたが、いざ引退が決まると胸が詰まる思いです」と杉山晴調教師は心境を明かした。

 輝きを放った現役生活だった。19年11月の新馬戦でデビューVを飾ると、翌年2月のエルフィンSをステップにデビュー3戦目で桜花賞を制し、オークス、秋華賞まで5連勝。桜花賞がG1・2勝目だった松山と16年に開業したばかりの杉山晴厩舎のフレッシュなコンビで牝馬3冠ロードを駆け抜けた。直後のジャパンCは3着と初黒星を喫したが、アーモンドアイや同年に無敗で牡馬3冠を制したコントレイルとの対決で競馬界を盛り上げた。

 古馬になって以降は故障に苦しんだ。21年4月のクイーンエリザベス2世C(3着)後には今回、引退の要因になった右前肢のけいじん帯炎を発症。今年も春は全休し、北海道で心身のリフレッシュを図りつつ、秋の復帰を目指していたがかなわず、ラストランは昨年のジャパンC(4着)だった。「まずは『お疲れさま』ですが、これからは繁殖牝馬として、いい子を産んでほしいです」と杉山晴師。今後は母として新たな馬生が始まる。

 ◆デアリングタクト 父エピファネイア、母デアリングバード(父キングカメハメハ)。栗東・杉山晴紀厩舎所属の牝6歳。北海道日高町・長谷川牧場の生産。通算13戦5勝(うち海外1戦0勝)。主な勝ち鞍は20年桜花賞、オークス、秋華賞。馬主は(株)ノルマンディーサラブレッドレーシング。

 〈オンとオフの切り替えで別馬に変身〉

 忘れられない話がある。2戦目のエルフィンS。杉山晴調教師は返し馬を行うデアリングタクトの後ろ姿に驚いたという。後肢がパドックより明らかに倍ほども膨らんでいたのだ。「普段はどこにでもいるような馬なのに、返し馬で別馬のようにパンプアップするんです」

 今まで色々な名馬の特徴を取材してきた。よく聞いたのがオンとオフの切り替えができる、ということ。ただ、これほど具体的な事例には初めて触れた。トレーナーが笑顔で「変な例えで言えば…」と切り出した言葉を引用し、秋華賞での偉業達成の紙面で「デアリングはスーパーサイヤ人」と大きな見出しで扱ったのも懐かしい。

 3歳時はしつこいほど無敗について聞いたが、答えはいつも「いずれ負けるのが競馬ですから」。その落ち着いた口調から何度も自然体と書いたが、後日こんな話を聞いた。「秋華賞のプレッシャーは別次元でした。あれを乗り越えたという経験をしているとしないでは雲泥の差です。とてつもない経験をさせてもらいました」。杉山晴厩舎は今年、全国リーディングの43勝。名牝の残した“財産”はしっかりと生きている。(山本 武志)

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