◆安田記念・G1(6月4日、東京・芝1600メートル、18頭立て=良)
今年の会心の的中レースを聞かれると口ごもってしまう一方で、悔しいレースは即答できてしまうのは情けないところだ。ソングライン(牝5歳、美浦・林徹厩舎、父キズナ)が連覇を達成した今年の安田記念は、今から思い返しても後悔ばかりが募る予想だった。最初はヴィクトリアマイルに続いて本命を打つつもりだったが、大外の18番枠を引いたことでシュネルマイスターに本命を“浮気”して、▲に評価を下げてしまったからだ。
鋭い決め手が武器の同馬が東京巧者なのは百も承知していたが、レースでは好スタートを決めて流れに乗り、スムーズな立ち回りから直線ではあっさりと勝ち切った。史上3頭目の連覇に加えて、ヴィクトリアマイルからの連勝は09年のウオッカ以来という偉大な記録のオマケ付きだったが、むしろ記者は意外なレースぶりに驚かされた。7枠13番からだった前年も、まずまずスタートは出ていたが、レースは大外後方から強襲V。それなら18番枠の今年は、もっとタフな競馬になって差しきれないかも…と予想していたが、中団から器用に立ち回る姿は想像の上をいっていた。
昨年も同じローテで臨んでいた陣営は、厳しい中2週でも調整ノウハウをつかんでおり、今年も“攻め”の姿勢を貫けていた。レース2日前の金曜日には美浦・Wコースでラスト2ハロン目は13秒8、同1ハロンは12秒8と速い時計をマーク。林調教師が「もう一歩踏み込んで攻めることを心がけました」と語っていた前年と同様の姿勢から、「状態面の不安はなし」とはジャッジできていた。そして5歳を迎えて林師の「フィジカルの部分でもメンタルの部分でもしっかりしてきました。トレーニングをしていても、体幹や背腰がしっかりしてきましたので、反動が出にくくなってきました」という本格化の手応えは心強いプラス材料だったが、ワンターンの東京でも大外枠は不利と決めつけてしまったのが誤算だった。そしてヴィクトリアマイルから新コンビを組んだ戸崎圭太騎手という“スパイス”が、さらにソングラインを成長させていたことに気づいた時には“後の祭り”である。
同騎手はヴィクトリアマイルの追い切りで3度、安田記念の追い切りで2度も手綱を自ら執って、厩舎と意思疎通を図って体の使い方などをより良い方向へ導いていったという。指揮官が「一番は体を使って走らせることでしょうか。追い切りではなく、一番アドバイスをいただいたところはそこだと思います」と振り返るように、常歩(なみあし)から徐々に速いステップに移行していく段階の一歩目の感覚を工夫してもらったという。そのおかげで「ヴィクトリアマイルも安田記念も、どんどんゲートが出るようになっていきました。スタッフと戸崎ジョッキーがコミュニケーションをとっていただいて、ちょうどいいところをつくっていただいた」と感謝するところしきりだった。
そのことについて戸崎騎手に聞くと、「僕なりに感じたことを伝えて、先生やスタッフも話を聞きにきてくださって、ソングラインをより良くするためにということをできたと思います。僕だけじゃなく、みんなでつくってこられたということです。大外でゲートを出たのは大きかったと思いますし、フィジカル面も良くなっていましたよ」と、やはり風通しのよい信頼関係が功を奏したことを知った。
もっと早く変化に気づいていれば、自信を持って本命を打てていたかもしれない―。取材すればするほど、悔しさがこみ上げてくるが、記者として大いに勉強になったことも確か。ラストランのブリーダーズCマイルは5着に終わっても、G1・3勝を含め国内外重賞5勝を挙げた名牝には違いないが、ひと味違った意味で記者にとっては記憶に残る一頭になったことは一年の反省を込めて記しておきたい。(坂本 達洋)