非常識を常識に変えた「ホースマンのバトン」 春秋ダート王レモンポップで結実した名伯楽の挑戦

チャンピオンズCを制したレモンポップと管理する田中博康調教師
チャンピオンズCを制したレモンポップと管理する田中博康調教師

 昨年の12月。チャンピオンズC前にレモンポップ(牡6歳、美浦・田中博康厩舎、父レモンドロップキッド)を管理する田中博康調教師の口から名伯楽の名前が出た。「藤沢(和雄元調教師)先生もグランアレグリアで距離に挑んでいましたよね」

 愛馬は、類いまれなスピードを武器に、2月のフェブラリーSを制し、春秋のダートG1連勝を狙って前哨戦の南部杯も大差勝ち。距離の範囲を1600メートルにまで伸ばしたが、次はさらに1ハロン延びる1800メートルへの出走。当然、初めてとなる距離が壁として立ちはだかった。田中博調教師は「走りのバランスなどをみても中距離馬というものではないので、ここは大いなる挑戦になります」と胸の内を素直に話していた。

 その中で出たのが、冒頭の藤沢和元調教師の挑戦だ。G1・6勝を挙げたグランアレグリアは、20年スプリンターズS(1200メートル)、20年安田記念(1600メートル)を制して短距離界を制圧し、次に掲げたのが未知となる2000メートルの21年天皇賞・秋への出走だった。藤沢和元師は「スピードのある馬で長い距離を走るのが今の流れ。これは世界的なこと。2000メートルをスタミナじゃなくて、スピードで勝ちたかったんだ」とその意図を説明。結果は3着だったとはいえ、調教師人生34年の集大成を、自身の代名詞である「チャレンジスピリット」で示し、次代への提言としたことは記憶に新しい。

 もちろん、芝、ダートの違いはあるとはいえ、この言葉は田中博調教師にも響いていた。「直接、藤沢和先生から学んだ訳ではないです」と前置きしながらも、「そのことは記事で読んでいたし、そばで見ていましたからね。レモンポップはスピードがあるのは分かっていたので、それを生かしてどう距離を延ばしていけるか。距離がもつ馬もスピードが求められる。重賞を勝つ前から種牡馬にしなければいけない馬だと思っていましたし、その価値を高めるための仕事もしていかなければいけないと思っています」。

 中間は、調教からコーナー4つの1800メートルという舞台設定を考慮し、スタンド前からスタートするなど工夫を施すなどして距離を克服。春秋ダートG1連覇を果たし、2023年JRA賞の優秀ダートホースに輝いた。

 2024年の始動は、サウジC・G1(2月24日、キングアブドゥルアジーズ競馬場)。異国の地で改めて1800メートルに挑んでいく。ホースマンが紡いできたバトンは、非常識を常識に変え、進化し続けている。記者もサウジアラビアに取材に行く予定。「挑戦」を目に焼き付けてきたい。(中央競馬担当・松末 守司)

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