愛馬ケイアイドリーとサウジアラビアに遠征する橋本沙枝助手「まずは無事に。見せ場はつくってほしいです」

橋本沙枝助手とケイアイドリー
橋本沙枝助手とケイアイドリー

 ダートの短距離で活躍するケイアイドリー(牡7歳、栗東・村山明厩舎、父エスポワールシチー)が、リヤドダートスプリント・サウジアラビアG3(2月24日、キングアブドゥルアジーズ競馬場・ダート1200メートル)に選出された。担当の橋本沙枝助手はトレセンに入って4年目で、海外のレースに担当馬と参戦する。

 小さい頃から父の影響で阪神競馬場に通った。「ジョッキーに憧れました。小学校高学年で厩務員という仕事を認識していたと思います」。高校を卒業し、ツテも無かったので牧場への就職は考えず、大阪の動物の専門学校に2年間通った。卒業生の就職先は動物園が多かったが、乗馬のゼミで初めて元競走馬と触れ合い、サラブレッドの魅力に心を奪われた。「1年間、週3で乗馬クラブに通いました」。卒業後はムロタホーストレーニング(現キャニオンファーム栗東)に就職し、25歳の時に「4~5回目のチャレンジで」JRA競馬学校厩務員課程に合格。半年で卒業したが、栗東トレセンの求人に空きが無く、ムロタに戻って2年近く腕を磨きながら待機した。

 2021年の1月1日から晴れて、栗東・村山明厩舎で正規採用が決まった。「先生が『女性を入れて、厩舎の雰囲気を変えたい』と声を掛けてくれました」と感謝する。「最初は緊張しました。馬乗りの自信もなかったし、調教のペースも(牧場と違って)速くて怖かったですが、スピードには慣れました」と一歩一歩、経験を積む。今回の取材も村山厩舎の大仲でさせてもらったが、年配の厩務員さんに「おっ、取材か?」と声を掛けられ、橋本さんも「楽しくやってます」とすっかりなじんでいる。

 これまでで一番印象に残っていることを聞くと、「初めて担当馬(サウンドブライアン)と競馬に行って、勝たせてもらいました」と21年1月23日の小倉3Rを挙げる。「1番人気でしたが、訳が分からないうちに勝ってしまったという感じです」と、なかなか実感が沸かなかったという。

 今回の主役ケイアイドリーは、21年4月24日の阪神8Rから、距離を短縮したタイミングで担当。当時の村山厩舎の番頭には「この馬は走るから、絶対に(担当を)離すなよ」と言われていたが、いきなり5馬身差で勝利。橋本さんは「そうなん?こんなに、ぶっち切るの?」と、ぼう然としたという。その後、休養を挟みながらもトントン拍子にオープン入りし、「私の心がついていきませんでした。ホントに走るんやと」と驚く日々。そして23年6月1日、北海道スプリントC・交流G3で重賞初制覇を飾った。ゲートまで付いて行ったため、ゴールの瞬間はバスの中。「車内で実況も流れず、応援できませんでした。バスから降りたら、先生がニコニコしていたのでホッとしました」と振り返る。

 「ドリーくん」「ドリやん」と呼んできた相棒も、7歳になった。1月30日の夜に選出の一報が届いたが、その時点で栗東の検疫厩舎がいっぱいだったため、8日に栗東を出発して美浦で輸出検疫を受ける。短期間に環境が変わる負担を気遣うが、そこは門別から小倉まで駆け抜けてきたベテランが、橋本さんを引っ張ってくれることもあるだろう。「まずは無事に。見せ場はつくってほしいです」。心優しいホースマンの挑戦を応援したい。(中央競馬担当 玉木宏征)

※注 20年3月のドバイゴールデンシャヒーンにゴールドクイーンが選出され、前川恭子助手(現調教師)が遠征していたが、コロナ禍でレースが中止になった。

 ◆橋本 沙枝(はしもと・さえ) 1993年4月6日、大阪府大阪市此花区出身。3兄弟の長女。趣味はゴルフと書道。「100~110ぐらいってことにしといてください(笑い)」とゴルフ歴は数年だが、なかなかの腕前だ。学生の頃はお笑いコンビ「モンスターエンジン」の追っかけをしていた。お酒はビール、チューハイを好んで飲む。中央競馬関西労働組合では執行委員も務め、「女性の意見が通るように」尽力している。

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