◆第169回天皇賞・春・G1(4月28日、京都競馬場・芝3200メートル)
伝統の長距離レース、第169回天皇賞・春(28日、京都)で、テーオーロイヤルとコンビを組む菱田裕二騎手(31)=栗東・岡田厩舎=は30回目のG1騎乗で、人馬とも初めてのビッグタイトルを目指す。3着だった22年以来2年ぶりの参戦だが、「骨折前のいい時を超えてきた」と自信の表情。ダイヤモンドS、阪神大賞典と重賞連勝の勢いに乗り、春の盾をつかみ取る。
厚い信頼があるからこそ、強い気持ちが生まれる。菱田はテーオーロイヤルと人馬ともにG1初制覇を狙う大一番へ、大きな瞳を輝かせた。
「いい形で阪神大賞典を勝って、一番強い馬でG1に臨めるというのは本当に感謝しています。自分自身が感じるプレッシャーは増えると思うんですけど、騎手としてすごく幸せなこと。むしろプレッシャーを自分から受けにいくぐらいの、いい緊張感を持って臨めればいいなと思います」
22年以来の挑戦となる春の盾。この2年の間に右後肢の骨折で約1年の長期休養を強いられた。だが、今年はダイヤモンドS、阪神大賞典を連勝して勢いを取り戻した。
「阪神大賞典は直線でGOサイン出してからの反応が、今までで一番だったんじゃないですかね。骨折前のいい時を超えるとは正直、思っていませんでした。そこを超えてきたのだから、本当にすごいと思います」
逆境を乗り越えた復活劇は自身の今とも重なる。昨年9月30日にパドックで落馬し、左肩を脱臼。再発防止の手術を行い、キャリア最長となる約3か月の休養を強いられた。
「すごく悔しさはありましたけど、色々と自分で考える部分がありました。もっとうまくなりたいと思ったし、(自身の手綱で休養前の全5勝を挙げた)アーテルアストレアのチャンピオンズCを見に行きましたけど、やはりこういう舞台で活躍したいと自分が騎手を志した時の気持ちを思い出しました。今までと違うふうに競馬を見ることができて良かった」
騎手としての初心に立ち返り、原点の場所に戻る。今から20年前の04年5月2日。菱田の人生はこの日、大きく変わった。
「僕の記憶にある初めて競馬場に行った日、イングランディーレの勝った天皇賞・春(京都競馬場)の日です。人生で一番の衝撃だったかもしれない。あのなかにあるもの、すべてに感動しました。パドックでジョッキーがまたがる姿や、競馬場全体の雰囲気。特別に何がというのは難しいけど、今思うと運命を感じる瞬間でした。それまではサッカー選手だけを夢見ていましたが、とにかくジョッキーになりたいと思うようになりましたね」
8年後の12年にデビューし、ずっと岡田厩舎に所属している。師匠から主戦として託された手綱。当然、期するものがある。
「本当に先生(岡田師)とスタッフの方に指導してもらい、支えてもらってきたからこそ、今の自分がある。先生は常に僕の騎手としての仕事への向き合い方を見てくれています。今回は厩舎、ロイヤル、僕にとって通過点と思いますけど、本当に大事なレース。騎手として結果を出すことしかないと思っています」
様々な感謝を胸に、勝負の大一番に打って出る。(山本 武志)
◆菱田 裕二(ひしだ・ゆうじ)1992年9月26日、京都府出身。31歳。12年3月に栗東・岡田稲男厩舎からデビュー。18年の北九州記念(アレスバローズ)で重賞初制覇。JRA重賞7勝を含む通算474勝。G1には29回騎乗し、22年天皇賞・春(テーオーロイヤル)の3着が最高。家族は妻と2男。160・1センチ、52キロ。血液型B。