JRAの女性騎手として活躍していた藤田菜七子騎手(27)の引退が11日、決まった。週刊文春が報じたスマートフォン不正利用について騎乗停止処分を受けたあと引退届を出し、受理された。約8年半、数々の記録を樹立するなど競馬界を彩ったヒロインは7月に結婚も発表したばかりだったが、あまりに突然過ぎる騎手人生の幕切れとなった。
JRA女性ジョッキーの第一人者として、華やかな光を浴びた8年7か月の結末は、突然だった。スマホの不正使用で新たな疑惑を報じられてから3日。9日に事情聴取に応じ、10日に騎乗停止処分を受けると引退届を提出。11日午後4時の「騎手免許を取り消しました」という1枚のリリース文が幕引きとなった。
問題となった競馬開催日の騎手調整ルームでのスマホの不正使用は、23年4月のこと。若手騎手6人の不正使用が発覚した直後に行われた聞き取り調査で自ら使用した事実を認め、口頭による厳重注意処分を受けた。
だが、“文春砲”が出ると再聴取され、騎乗停止処分に。師匠の根本康広調教師(68)=茨城・美浦トレーニングセンター所属=はこの日午前「2回処分を受けるのはおかしい」と主張。これに対し、夕方から対応したJRAの松窪隆一審判部長は新たに他者との通信があった事実が判明したとし「虚偽の申告及び新たに発覚した事実についての処分で、1度目とは違う」と説明した。
根本師は悲しみと憤りを漏らした。「本当は一緒に謝罪しなければいけない」としつつ「(菜七子は)そういう精神状態じゃない。引退届を書く時に私の万年筆で大泣きしながら書いていた。両親にも旦那さんにもやめる相談をしているし…」。その上で「私が(26年春の定年で)引退するまでは続けてほしかった」と絞り出した。
競馬と無縁な家庭環境から努力を重ね、JRA史上7人目、16年ぶりの女性騎手となった。初の重賞勝利、年間勝利数、積み上げた最多の166勝などJRA女性騎手の記録を次々と更新し、背中を追った後輩は6人。7月にJRA職員と結婚も発表し、さらなる飛躍を誓ったが、8月25日の新潟2Rで騎乗したウヌボレヤサンが最後の勝利に。「G1ジョッキーになりたい」という夢はかなわず、ターフを去ることになった。
◆菜七子スマホ問題の経過
23年4月若手騎手6人不正使用
5月JRA聞き取り調査
菜七子「SNSなどを閲覧したが、外部との通信はしていない」
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口頭で厳重注意処分
今年10月文春砲を受け9日に再聴取
菜七子「厩舎関係者3人と複数回の通信をした」
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10日に虚偽申告も合わせて重大な非行として11日からの騎乗停止処分と裁定委員会送付を通告。菜七子は引退届を提出
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11日に根本師が処分に不満を主張も「新たに発覚した事実への処分」と説明し、菜七子の引退届を受理
◆スマホ不適切使用と処分
▼23年5月3日 4月の競馬開催中に通信機器を不適切に使用したとして永島まなみ、古川奈穂、今村聖奈、河原田菜々、小林美駒、角田大河の6騎手を5月13日から6月11日まで30日間(開催10日)の騎乗停止にしたと発表。
▼24年7月10日 水沼元輝騎手が3~5月に美浦や競馬場の調整ルーム居室内でスマホを不適切に使用していたことが判明。偽装工作をして持ち込んでいたことも分かり、5月31日から9か月間の騎乗停止が決定。特定できる範囲では最も重い処分となった。
▼同10月7日 永野猛蔵、小林勝太の両騎手が調整ルーム内にスマホを持ち込み、通信していたことが判明。2人は8日から騎乗停止になり、裁定委員会での処分が今後行われる。
◆藤田菜七子のJRAでの主な記録
▽女性騎手最多勝利 通算3897戦166勝。18年に藤田が記録を抜くまでは増沢由貴子(旧姓・牧原)の34勝が最多だった。
▽女性騎手最速重賞騎乗 16年スプリングS(モウカッテル=9着)で、デビュー16日目で。2位は今村聖奈の121日目。
▽女性騎手初の平地重賞勝利 19年カペラS・G3(コパノキッキング)。同年の東京盃・Jpn2では同馬で交流重賞も女性初V。
▽女性騎手初のG1騎乗 19年フェブラリーS(コパノキッキング=5着)
◆藤田 菜七子(ふじた・ななこ)1997年8月9日生まれ。27歳。茨城県出身。2016年3月、JRAでは16年ぶりとなる女性騎手としてデビュー。今年7月にJRA職員との結婚を発表。JRA通算166勝(うち重賞1勝)。157.4センチ。