
ドバイ・ワールドCデーの諸競走が4月5日、メイダン競馬場で行われる。今年は日本馬が大挙参戦するなかで、特に注目を集めるのが日本人トレーナー最多の海外重賞16勝を誇る「世界のYAHAGI」こと矢作芳人調教師=栗東=。今回はドバイ・ワールドC(ダート2000メートル)のフォーエバーヤング(牡4歳、父リアルスティール)、ドバイ・シーマクラシック(芝2410メートル)のシンエンペラー(牡4歳、父シユーニ)、ドバイ・ゴールデンシャヒーン(ダート1200メートル)のアメリカンステージ(牡3歳、父イントゥミスチーフ)と強力な3頭を送り出す。
世界一の走りが中東で新たな歴史を生む。フォーエバーヤングはドバイ・ワールドCで世界最高の優勝賞金1000万ドル(約15億7024万円)を手にしたサウジCに続く連勝となれば、32億円を超える総獲得賞金は日本競馬史上歴代1位に浮上する。サウジC後はすぐにドバイへ移動。矢作調教師は現状を満足そうに説明する。
「さすがに目いっぱい走ったような感じはありましたが、疲れはしっかり取って、状態は落ちていない。順調にきていることが何よりです」
世紀の激闘を制した。サウジCは数々の日本馬を打ち負かしてきた香港のロマンチックウォリアーと後続を10馬身以上も離すマッチレース。一度はまくり気味に前へ大きく出られながらも、勝利への執念を乗せた末脚でねじ伏せる。このパフォーマンスはレーティング128ポンドを獲得し、ロンジンワールドベストレースホースランキング(中間発表)で日本馬では史上4頭目となるレーティング世界1位に輝いた。
「今回はパンサラッサの時とは違い、結果を出さないといけないというプレッシャーがあるなかで、ロマンチックウォリアー(のダート適性)が分からないという不気味さがありました。そして、思った以上に強かった。ただ、勝って当然だったと思っています。まだまだ、レーティングは欲しいですけどね」
世界のYAHAGIにとって、海を渡ることはもう特別ではない。しかし、フォーエバーヤングとのドバイ遠征は違う。自ら手がけた父のリアルスティールは16年のドバイ・ターフを制覇。気性が激しく、レース当日には装鞍中に壁を蹴って、蹄鉄がずれるなど調整に苦労しながらも、厩舎にとっては初の海外重賞タイトルを届けてくれた。あまり過去を振り返ることをしないトレーナーにとっても、忘れられない格別な喜びがあった。
「今回は本当に他の人には分からないであろう感慨深いものがあります。お父さんは何度も挑戦しながら、当時はずっと勝てなかった海外のG1を勝たせてくれたんですからね。あのドバイは、今の原点になっていると言ってもいい」
今月20日に厩舎のホームページをリニューアルした。そのトップに出てくるのは「日本の馬は、強い。」という文字。この思いが世界を舞台に戦う矢作師の大きなモチベーションになっている。
「うちの馬もそうだが、日本馬のレベルが上がっている。俺は日本が世界の競馬の中心に立つんだという気持ちでやっているし、そうなっても不思議ないところにきていると思っています」
その先頭にフォーエバーヤングが立っている。まずは世界一を防衛し、秋に大目標としている米ブリーダーズCクラシック(11月1日、デルマー競馬場・ダート2000メートル)へ。視線の先には果てしない夢が広がっている。(取材・構成 山本 武志)