先週でJRAの夏競馬が終わりを告げて、3歳馬の未勝利戦が終了した。勝ち上がれなかった主な馬たちは、地方競馬に移籍するか、現役引退して乗馬や繁殖牝馬になるなどの道を選ぶことになる。そんな厳しい生き残りをかけた戦いに敗れそうになりながら、オーストラリアに新天地を求めて移籍する“異色の未勝利馬”がいるのをご存じだろうか。
それは8月25日にJRAの競走馬登録を抹消されたマイネルレガシー(牡3歳、父ルーラーシップ)で、伯父に02年のオールカマーなど重賞5勝を挙げたロサードや重賞3勝馬のヴィータローザがいる、いわゆる“バラ一族”と言われる血統の馬だ。2歳の7月に新潟でデビューして以来、一貫して芝の中距離を走り、全13戦のうち2着2回、3着2回と力は見せていたが、ついに白星には手が届かなかった。しかしそのレースぶりや血統的な魅力に目をつけて、サラブレッドオークションで購入したのが、「ライジングサン・シンジケート」(https://www.risingsunsyndicate.com/)だ。
オーストラリアで長年競馬に携わってきた日本人により2020年に設立された同シンジケートは、一口馬主のような形で共有馬に出資すれば、誰でも共有馬主となれるオーナーズだ。09年に騎手免許を取得してシドニー地区で活躍し、短期免許で地方の名古屋競馬でも騎乗経験を持つPRマネジャー兼ブラッドストックマネジャーの市川雄介氏(31)は、「これまでもオーストラリアでの日本馬は活躍が目立ちますし、オーストラリアに合う血統とみて購入しました。(19年のコーフィールドカップ・豪G1を勝った)メールドグラースが同じルーラーシップ産駒で結果を出していますし、こちらで母の父であるネオユニヴァース系の産駒が好成績を残しているのもあります。レース内容も勝ちきれない面はありますが、良馬場でも稍重馬場でもこなしていて、オーストラリアではスピードに加えて、ある程度パワーも要求される点を評価しました」と、異例の移籍が実現した経緯を説明する。
確かにオーストラリアにおける日本馬の活躍はトレンドになっており、18年のNHKマイルCを制したケイアイノーテックが、今年の初めに移籍している。豪州のマイル路線で活躍したG1馬フィアースインパクトの全弟という血統が評価されて、移籍初戦のウィンクスS(ランドウィック競馬場・芝1400メートル)で4着に健闘しており、今後の活躍が期待されている。リスグラシューが19年のコックスプレート・豪G1を制したのも記憶に新しく、トーセンスターダムはJRA時代に重賞2勝を挙げて、豪州移籍後は日本のファンにもなじみのあるダミアン・レーン騎手とのコンビでG1を2勝。引退後は豪州で種牡馬としてのキャリアをスタートさせており、日本からの移籍馬の代表的な存在として広く知られている。
豪州から見た日本競馬に対する評価を市川氏に聞くと、「SNSなどの普及によって、より日本の競馬は注目されています。日本の中、長距離のレベルは相当高いですし、こっちに持ってきて競馬をさせてみたい気になります」と教えてくれた。そんな期待を背負ったマイネルレガシーは、これから欧州を経由して豪州に輸送する出国検疫の準備を進めていくという。「日本馬の活躍しやすい環境になっているので、まずは一つ勝ってもらいたいですし、ゆくゆくは大きなところでも活躍してほしいですね」と市川氏。一般社会でもボーダーレス化が進んでいるなかで、競走馬にとっても「選択肢が増えていく」ことは望ましいだろう。そこから逆転のサクセスストーリーが実現するかもしれないと考えると、競馬のロマンの一つとして興味が沸く。
(中央競馬担当・坂本 達洋)