2002年の皐月賞馬ノーリーズン、今週末の神事「相馬野馬追」で3年ぶり雄姿 23歳でも元気いっぱい

3年ぶりの参加に向けて、浜辺で鍛錬に励むノーリーズン
3年ぶりの参加に向けて、浜辺で鍛錬に励むノーリーズン

 2002年の皐月賞で単勝15番人気での番狂わせVを演じたノーリーズン(セン23歳)が今週末、福島・相馬地方で開催される「相馬野馬追(そうまのまおい)」(23~25日)で3年ぶりにその雄姿を披露する。新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から主要行事を大幅に縮小してきた神事だが、今年は19年以来の通常開催。2日目に行われる「お行列」で市街を練り歩き、再びG1馬の輝きを放つ。

 福島・相馬地区の市民が愛する神事が今週末、3年ぶりの本格開催を迎える。彩りを添えるのは、20年前に競走馬としてG1制覇の栄華を極めたノーリーズン。南相馬市でけい養先の鹿頭(かとう)ステーブルを運営する鹿頭芳光さん(45)は「元気ですよ。健康状態に何の心配もない。脚元も問題ないですよ」と、準備万端の構えだ。

 鹿頭さんが皐月賞馬を預かったのは2011年の東日本大震災後。同じ南相馬市のけい養先から、震災直後の一時避難を経て移ってきた。「当初は気の荒いところもありましたが、すっかりおとなしくなりました。もう、年だしね」。普段は放牧地でのんびりと草をはんで過ごすが、今月は3年ぶりの野馬追参加を控え、早朝に近くの海岸へ出向いて浜辺で直線500メートルほどを2往復走るのを日課としてきた。鹿頭さんによると、砂浜は「人間が普通に歩くのもなかなか大変」。若馬は脚を取られることもしばしばだが、ノーリーズンはスピード感抜群で、全くブレがないという。

 3年前までは空中高く打ち上げられた神旗を約400騎が争奪する目玉行事の「神旗争奪戦」に鹿頭さんと参戦していたが、今年は甲冑武者を背に町を練り歩く「お行列」に参加する。乗り手は同市生まれの学生・五賀(ごが)愛華さん。自ら地元の伝統行事への参加を希望したが、女性は20歳未満の未婚者と参加条件が決まっているため、19歳の愛華さんにとっては最初で最後のチャンス。ベテランで落ち着きあるノーリーズンが、相棒として一役買うことになったのだ。

 現在は進学で地元を離れている愛華さんの代わりに、父の和広さんが連日、浜辺で調教。「出る人も見る人も、みんな楽しみにしているでしょうね」と、まな娘の晴れ舞台を心待ちにしている。23歳の高齢もあり、今年の参加が最後になる可能性もあるノーリーズン。現代に復活する戦国絵巻の世界で、再びスポットライトを浴びる日が間もなくやってくる。

〈取材後記〉

 鹿頭さんはかつて、草競馬で騎手をしていたという。ところが騎乗方法については「習ったことはないですね。周りの人に教えてもらいながら覚えました」。本人にとってはあまりに当然のことだったのか、私の質問に不思議そうな表情を浮かべた。

 思い返せば、南相馬市で生まれた私の叔父たちも若い頃は野馬追に参加していたが、乗り方は我流だった。自宅で飼育する農耕馬に乗って覚えたと話していた。これこそが野馬追の神髄。今でこそ神事だが、もとは相馬中村藩の軍事演習の一環だった。だから誰しも、自宅で飼っている馬で野馬追に参加していた。

 「16歳の頃にはすでに、元競走馬を家で預かっていました。家に馬がいなかったことはないですね」と鹿頭さん。「縁があったから」と数え切れない元競走馬の“第二の馬生”を支えてきた。ノーリーズンは五賀さんに委ねるが、今年も元競走馬と一緒に「お行列」に参加予定。相棒は金沢競馬で16~18年に10勝を挙げたヤマカツトップガンだ。(志賀 浩子)

 ◆ノーリーズン 父ブライアンズタイム、母アンブロジン(父ミスタープロスペクター)。現役時は栗東・池江泰郎厩舎に所属。02年1月の新馬戦から2連勝し、4戦目の皐月賞は7分の2の抽選突破からレースレコードVを成し遂げた。04年朝日チャレンジC11着後に引退。通算12戦3勝。総獲得賞金は1億8601万7000円。引退後は種牡馬となり、10年全日本2歳優駿3着のキスミープリンス、11年九州ダービー栄城賞(佐賀)Vのコスモノーズアートなどを送り出した。

 ◆相馬野馬追 福島県相馬地方の相馬中村神社、相馬太田神社、相馬小高神社の3神社の祭礼。平安時代に平将門が野生馬を敵兵に見立てた軍事訓練が起源とされ、国の重要無形民俗文化財に指定されている。南相馬市の雲雀ヶ原祭場地で開催される「甲冑競馬」「神旗争奪戦」のほか、市街地を騎馬武者が行進する「お行列」など戦国絵巻さながらの世界が展開される。

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