◆第91回日本ダービー・G1(5月26日、東京競馬場・芝2400メートル)
ホースマンたちが最高の栄誉を求めて挑む日本ダービー(26日、東京)。馬主8年目の原村正紀オーナー(57)は、エコロヴァルツでダービー初出走。決戦の舞台となる東京競馬場でインタビューに応じ、競馬の祭典への思いと愛馬を語った。
日本ダービーの重みをかみ締めるように、東京競馬場のターフに目をやった。エコロヴァルツを送り出す原村オーナーは馬主8年目で初出走。「1歳の時に牧場で初めて見た瞬間に『この馬』と思ったヴァルツで出られる。出走するだけでも大変なことですから感無量です」
祭典への出走は運命だったのかもしれない。馬主を目指したのは、藤沢和雄元調教師のドキュメンタリーを見たことがきっかけだった。「自分を過小評価していた藤沢調教師は、英国に渡って考えが変わった。仕事も行動する努力が必要」と自身と重なる部分が多かった。偶然にも名伯楽のダービー初V(レイデオロ)が馬主デビューした17年だったことを伝えると「いいねぇ。それは何かあるね」と目を丸くして喜んだ。
昨年11月に京都ジャンプSで重賞初制覇(エコロデュエル)を飾り、4月6日にはニュージーランドT(エコロブルーム)で平地重賞も制した。目覚ましい躍進ぶりだが、セリで高額落札した馬で結果が出ず「高い受講料を払ってしまいました」と苦笑い。それでも事業でも心得てきた「失敗は成功のもと」の精神で挑み直した。
「この3歳世代から考え方を変えたんです」と血統や馬体の見方を猛勉強。「顔がすっきりしていて、しなやかな筋肉。好みだった」のがエコロヴァルツだ。
ドイツ語の「鍛錬」と名付けられたブラックタイド産駒は期待通り、デビュー2連勝。続く朝日杯FSでも、のちにNHKマイルCを圧勝するジャンタルマンタルに続く2着と健闘した。「もう少し距離があれば勝っていたよね」と悔しがるが、世代トップクラスの能力を確認できたという。7着に敗れた皐月賞でもメンバー最速タイの末脚を繰り出しており「前走も最後はいい脚で来ていたからね」と期待する。
冠名のエコロは「エコロジー」と「ロマンチックライフ」を合わせた造語で、環境と豊かな人生を世界に―という意味が込められている。「そういう意味でも世界で走っていないと」。世界を舞台に戦う意思が込められた冠名は、大きな舞台がふさわしい。
馬主として最も大事にしていることを「人間関係」と即答する。信頼する牧浦調教師にとっても初めての大舞台になる。「すごくいい人。頑張ってもらいたい。一緒に出られるのはうれしいし、他の調教師の方とも出たい」と語ると、続けざまに「ダービーは他人事だったけど、昨秋あたりから意識した。来年からはどんどん行きますよ」と拳に力を込めた。
ホースマンにとって最高の晴れ舞台。エコロ軍団の歴史に新たな1ページが加わる。(取材構成・浅子 祐貴)
◆原村 正紀(はらむら・まさとし)1966年、栃木県生まれ。57歳。2000年にシステム開発・販売、健康・美容分野のオリジナル商品を開発する株式会社エコロ・インターナショナルを設立。16年には販売する製品全ての品質が優れていると認定され「国際グランプリ最優秀賞」を受賞。出身地の栃木県真岡市内の学校や東南アジアへの寄付、地域の神社に奉納するなど、地域貢献や慈善活動にも精力的に取り組む。17年に馬主免許を取得。24年2月から東京馬主協会の理事に就任した。所有するJRA所属馬は40頭。
エコロ軍団の将来を語る姿は誰もが応援したくなる人柄
今回が初めてのオーナー取材。馬主の方ってどのような雰囲気なのか―恐る恐る足を運んだが、その不安がすぐに消え去るほどに温かく迎えてくださった。時にはユーモアを交え、熱く、そして前向きに今後のエコロ軍団の将来を語る姿は、誰もが応援したくなる人柄だと感じた。
「いい環境で人が働いていれば馬に伝わる。馬も大事だけど、それ以上に調教師をはじめ、周りの厩舎スタッフだよね」など、事業同様に人とのつながりが一番だと何回も話していたのが印象に残った。
2月からは東京馬主協会の理事に就任。「競馬場だと臨場感や迫力が全然違うので、知らない人に魅力を伝える活動をしていきたい」と競馬界の発展にも思いを巡らせる。馬の世界も人との信頼関係が重要。そういった意味でも、今後ますますの活躍が期待される。(浅子)