◆第168回天皇賞・秋・G1(10月29日、東京競馬場・芝2000メートル)
第168回天皇賞・秋・G1は29日、東京競馬場の芝2000メートルで行われる。松末守司記者が深く思い出に残っているのは21年のグランアレグリア。22年の2月末で定年引退した藤沢和雄元調教師の思いが詰まった出走に間近で触れた記憶が忘れられない。今年は再び牝馬の「挑戦」となる紅一点のスターズオンアースに熱視線。先週は菊花賞「まとめ」でドゥレッツァを推奨した「考察」プロローグ編で取り上げる。
興奮していることは、目頭が熱くなっていることで分かった。21年の天皇賞・秋。藤沢和調教師は短距離女王のグランアレグリアに最後の夢を託していた。それは3階級制覇。固定観念を打ち崩し続けた34年の調教師人生の最後に掲げた“非常識”への挑戦を、私は固唾をのんで見守った。
同馬はそれまでに20年の安田記念などマイルG1を4勝し、20年のスプリンターズSでは6ハロンのG1でも勝利。短距離界を制圧した。次に照準を定めたのが2000メートルのG1だ。21年は春も大阪杯に挑んだが4着。そして、秋の盾だった。
普通ではあり得ない、前代未聞とも言える挑戦。しかし、藤沢和師は「スピードのある馬で2000メートル、2400メートルを走り切ること。これは私だけが言っていることではない。今の世界の主流なんだ」と一貫して言い続けてきた。それを証明するための戦いでもあったように思う。
レースは直線でいったんは先頭に立ちながらもラストでエフフォーリア、コントレイルにかわされた。3着に敗れたが、それがそのまま答えではない。ゴール前まで2頭に食い下がった姿は、翌年2月末に定年引退を控える師から次代の競馬界への提言のように感じた。固定観念にとらわれず、挑み続けること。20年3月から10数年ぶりに競馬記者に復帰し、この思いに触れたことは大きな財産になった。
今年、挑戦を掲げるのがスターズオンアース。牝馬ながらイクイノックスを始め最強牡馬たちに挑む姿勢は勝算あってのものだろう。思えば、同馬の祖母スタセリタの2番子は藤沢和師が管理したソウルスターリング。ソウルもまたマイル血統と言われながら、2400メートルのオークスで常識を覆し、勝利した過去がある。今年もチャレンジスピリットが、府中のターフを沸かせてくれるはずだ。(松末 守司)