昨秋、当コラムに登場してもらった岩田咲子さんは、和田竜二騎手らのバレットを務める。彼女を競馬の世界に導いたのが池添謙一騎手の妹で、謙一騎手らのバレットを務める美幸さん。2人は高校の同級生で親友だ。バレットの主な仕事は、レース前の検量がスムーズに行くように鞍の準備をしたり、勝負服の準備やヘルメットに枠番の帽色をかぶせたりと、多岐に渡る。
咲子(以下、咲)「ミー(美幸さん)は周りをよく見てるし、ホントに機転がきくんですよね。以前、レース終わりの馬が検量室前に戻ってきた時に熱中症で倒れちゃって、私が驚いてる間にミーはすでにバケツを持って走ってました。それに続くようにみんなでバケツリレーして馬は元気を取り戻したんですが、いつも行動が早く、自分の仕事じゃないことまで率先して動きます。だから頼られることが多くて、そのぶんしんどいこともあるとは思いますが…(苦笑い)」
美幸(以下、美)「私たちはそれぞれの騎手に雇われてますが、同じ環境、同じ場所、同じ物を共有して仕事している以上、自分にできることがあればを意識しています」
美幸さんは小学5年生から中学3年生まで乗馬クラブに通い、馬術部のある栗東高校を選択した。
咲「以前、謙一さんが(レース後、検量室前に)引き揚げてきた時に、厩務員さんがまだゲートから帰ってきてなくて下馬できず、ミーが馬の口を取ってたことがあったよね。さすが、馬に携わってきた兄妹の光景だなと思いました」
美「今は検量室前で馬に近づくのは禁止されてるんですが、厩舎に住んでる時に放馬してる馬を捕まえたり、馬術を経験しているので、体が勝手に動いていました」
落馬負傷のため急きょ乗り替わりが発生した時なども、検量室全体を見渡して、2人は動く。騎乗数の少ない騎手はバレットを雇っていないが、新たに乗り替わりとなった騎手にバレットが居ない場合でも率先して手伝う。
美「あの騎手で、この負担重量なら、この鞍がいいんじゃないかなとか。少しでもスムーズに回るように準備しました」
咲「ミーが鞍を作ってるから、私はヘルメットのセットをしたり。言葉はなく、目で合図しながらやったよね!ルメールさんのバレットに、『ミーちゃんは目が馬だし、手は千手観音』って言われてました(笑い)。視野が広くて、テキパキ仕事が早いんですよね」
美「もっといい褒め方なかったんかな(笑い)」
美幸さんが思春期の時に謙一騎手は競馬学校で寮生活を送っていたため、あまり一緒に遊んだ記憶がないと言う。兄が2人いるため、謙一騎手を「謙くん」、学調教師は「まーちゃん」と呼ぶ。
美「謙くんが騎手になってから仲良くなって、かわいがってもらうようになりました。自分が何かを率先してやることで見返りは求めていませんが、そのぶん兄が何か困った時に、助けてもらえることがあればいいなと思ってます。地方騎手や海外からきた騎手のサポートもしますが、私がやることで兄が地方や海外に行った時に『妹さんにお世話になってるから』と兄の手助けをしてもらえることがあるかなと思い、みなさんのバレットをさせていただいてます」
咲「約20年、競馬に携わらせてもらって本当に色々勉強させてもらってる。池添家にもたくさんお世話になってきて、私の人生の半分はミーのおかげで出来てて、本当に尊敬できる自慢の親友です」
美「ありがとう(照れ)。私もいい環境で働かせてもらって、父(兼雄元調教師)はもう引退しましたが、兄たち2人に少しでも活躍してもらえるように、サポートできたらなと思ってます」
今回の取材を通して、勝利に向けて突き進む深いきょうだい愛を感じた次第。土日のスポーツ報知紙面で謙一騎手のコラムを読み、美幸さんのことも思い出しながら応援していただけたらと思う。(中央競馬担当 玉木宏征)