私が10、11年にチャンピオンズCの前身だったジャパンCダートを勝たせてもらったのがトランセンド。管理馬の中でも忘れられない一頭です。
母のシネマスコープは当初、私が騎手引退から面倒を見てもらった沖厩舎に入る予定でしたが、開業祝いでいただきました。現役時代はオープンまで走り、引退後は子供がJRAで計21勝も挙げる優秀なお母さん。本当に助かりました。その6番子がトランセンドです。
特に覚えているのは10年のこのレースです。当時は逃げの戦法が確立。前走のみやこSを勝ったことで1番人気の支持を受けました。緊張の中で見守った一戦ですが、絶好の3番枠から1コーナーまでに主導権を握った時点でホッとひと息。最後は2着のグロリアスノアと首差の接戦でしたが、ゴール前50メートルで「よしっ!」と勝利を確信しました。
開業16年目でG1初タイトル。レース後に自然と胸が熱くなり、涙が出てきました。競馬場で泣くなんて騎手時代にもなかったこと。調教師として、一頭の競走馬に牧場やオーナーサイドなど様々な人が携わっている重みを深く知ったからでしょう。込み上げるものが抑え切れず、喜びをかみしめたことを覚えています。充実期にあった翌年は大外枠からの先行策で快勝でした。このG1を連覇した馬は過去に1頭しかいないようですね。本当に強く、すごい馬でした。
今年はトランセンドと同じように連覇を狙う先行馬レモンポップが中心です。非凡なスピードがありながらも「テンよし、中よし、しまいよし」の競馬ができます。南部杯からのローテーションは昨年と同じ。南部杯の勝ちっぷりは昨年の方が良かったですが、1週前追い切りの時計もよく、上積みもあるはずです。連覇は十分にあるでしょう。
相手は3頭挙げておきます。サンライズジパングはフォーエバーヤングを中心とした3歳世代。私も今年の3歳は本当に強いと思いますし、その中で上位争いしてきた馬ですから。中間の動きで怖いのがブリンカーを着けてきたセラフィックコール。あと、地力は高いウィルソンテソーロですが、ここ2週の攻め馬が軽いのが少し気になります。(JRA元調教師)
◆安田 隆行(やすだ・たかゆき)1953年3月5日、京都府生まれ。71歳。72年に騎手デビューし、91年にトウカイテイオーで皐月賞と日本ダービーを制覇。95年に栗東で厩舎を開業。今年3月の引退までJRA通算967勝。重賞はG1・14勝を含む59勝。海外G1は3勝(すべて香港スプリント)。