◆ドバイ国際競走(3月30日・メイダン競馬場)
直線で内をついたジェンティルドンナの前に、壁ができた。陣営が大きく息をのむ。瞬時に、ムーアが急ターンで外に出した。国内G1・5勝(当時)の女傑が一気に脚を伸ばし、一昨年覇者の仏国馬・シリュスデゼーグルに1馬身半差で勝利。前年2着の雪辱を果たし、日本の牝馬として初めて同レースで栄冠を手にした。
「ムーアがすごかったね」。調教担当の井上助手がうなったように世界的名手の巧みなさばきが名シーンを生んだが、馬を最高の状態に仕上げきったからこそのリード。ポイントは3つあった。
まずは輸送だ。空輸は馬運車より負担が少ないというが、揺れや騒音の激しい乗降時がカギ。「メンコ(覆面)を二重にしたり、検疫馬房から騒音を聞かせたりして対策していた」と担当の日迫厩務員は振り返る。
温度変化への対応も重要。ドバイは調教開始の早朝は肌寒いが、昼にかけて真夏ほどに気温が上昇する。「普段調整にかけている時間にこだわらず、暑さを避ける方が大事。厩舎地区の環境は冷房などが整っていて、ある意味、日本より調整しやすいから」と井上助手は指摘する。
もう1つは調教場所の選択だ。初日に入ったタペタ(オールウェザー対応の馬場)はグリップが利き過ぎ、故障のリスクを感じたという。翌日から井上助手は、芝での調教をリクエスト。「日本でほぼ仕上げていくから、負荷はもういらない。ある程度の要求には向こうも応えてくれるから」。騎手と馬だけでなく、スタッフも知恵を絞って戦い、つかんだ栄誉だった。(宮崎 尚行)