11月27日に東京競馬場で行われた第42回ジャパンC・G1は、ライアン・ムーア騎手=イギリス=に導かれた3番人気のヴァラアズール(牡5歳、栗東・渡辺薫彦厩舎、父エイシンフラッシュ)がG1初制覇を飾った。
同馬を管理する開業7年目の渡辺薫彦調教師にとっても初のG1タイトルになった。騎手時代は所属先の沖芳夫厩舎が管理した1999年の菊花賞馬ナリタトップロードとのコンビで数々の大舞台を経験。「今でも当時のファンの方からお手紙をいただきます」というサッカーボーイ産駒と挑んだ東京の芝2400メートルの大レースは日本ダービー2着、2001年のジャパンC3着。あと一歩のところで涙をのんでいた。当時味わった悔しさを、立場を変えて晴らす格好となった。
ヴェラアズールは異色のキャリアも注目されていた。3歳3月の新馬戦から16戦続けてダートに出走。芝のレースを走ったのは今年3月が初めてだった。そこから6戦4勝の快進撃。初挑戦のG1で有馬記念と並ぶ国内最高の「4億円レース」をものにした。
育成段階の1歳秋に左後脚を骨折。その後も故障が相次ぎ、一時はデビューさえ危ぶまれた。陣営の見方は「芝向き」。しかし、馬体も大きかったため脚元への負担が考慮されてダートへの起用が続いた。5歳春になり、ようやく強い調教にも耐えられる体質になったと判断された。芝の使い出しがもっと早ければ、現役生活が短くなってしまっていた可能性も否定できない。我慢が実ったと言っていいだろう。
師匠の教えを実践した勝利にも感じた。5年前に紙面の企画でナリタトップロードの関係者を取材。渡辺師が騎手デビューから厩舎開業まで師事した沖芳夫調教師(当時、2019年定年引退)は「(2歳の12月にデビューした)トップロードには時機を待つことの大切さを教えてもらいました。オーナーは2歳の夏前の入厩を希望しましたが、夏を越して体つきがガラッと変わったんです。個々の適性は長い目で考えないといけない」と語っていた。
JC覇者は有馬記念(12月25日、中山・芝2500メートル)への参戦へ向け、放牧先で調教を再開した。国内最強クラスが集結する今年のグランプリ。再び驚きの走りを見せてくれると期待している。(中央競馬担当・吉村 達)