不屈の隻眼ジョッキー、宮川実騎手が高知からWASJ参戦「名前を世界に広げられるように頑張ります」

ハンデを克服し、高知第一人者の座に上り詰めた宮川
ハンデを克服し、高知第一人者の座に上り詰めた宮川
WASJ初参戦に意気込む宮川(左)と、妻の真衣調教師
WASJ初参戦に意気込む宮川(左)と、妻の真衣調教師
地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップ制覇で代表の座をつかんだ宮川
地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップ制覇で代表の座をつかんだ宮川

 海外、地方の名手とJRAのトップ騎手が個人、チーム対抗で争う「2023ワールドオールスタージョッキーズ(WASJ)」が26、27日、札幌競馬場で開催される。09年の落馬事故で左目を失明しながら現役復帰し、21、22年と全国勝率1位に輝いた地方競馬屈指の実力者・宮川実騎手(41)=高知=がJRAに初参戦。地方所属騎手として18年ぶり4人目の優勝を狙う。

 地方競馬には今、全国に278人の現役騎手がいる。中央、そして世界の名手と腕を競うWASJに出場できるのはその中でわずか一人。代表を決めるジョッキーズチャンピオンシップには、各地区の猛者12人が参加した。宮川は全4戦の3戦目が終わった時点で勝ち星がなく、得点7位。最終戦を逃げ切りで制して首位に浮上し、大逆転で札幌行きの切符をつかんだ。

 「最後に勝ちましたが(優勝の)実感はなかったです。ああいう舞台で勝てたことに満足していたので、ポイントは意識していませんでした」

 昨年はデビュー後初の高知競馬リーディングを獲得。136勝もさることながら、勝率は初めて全国1位となった前年をさらに上回る32・2%、連対率は51・4%と、圧倒的な数字をたたき出した。

 「いい馬に乗せてもらっていますし、いかに自分が落ち着いて乗るかの繰り返しです。一頭一頭、大事にという意識が高まった結果なのかなと思います。(所属厩舎の)打越(勇児)先生も自分をリーディングにさせると言ってくれていた。結果が出て良かったです」

 09年5月2日。第4コーナー手前で騎乗馬が故障し、宮川はコースに投げ出された。顔面の複雑骨折で、左目を失明。だが、宮川に引退という選択肢はなかった。複数回の手術に懸命のリハビリ、さらに騎乗感覚を取り戻すための摸擬レースを経て、わずか1年後の5月29日に復帰。ハイペースで勝利を積み重ね、昨年1月には地方通算2000勝に到達した。

 「自分にハンデがあることは受け入れて、できることをやってきました。妻もですが、周りの人や仲間がすごく支えてくれたからこそ、ここまで来られた。これは強く実感しています」

 人知れぬ努力と高い技術でトップに上り詰めた宮川だが、これまで中央では一度も騎乗経験がなく、今回のWASJが初めてとなる。高知からは赤岡修次(07年3位、14年6位)、永森大智(16年3位)に続く3人目の代表だ。

 「永森君には札幌競馬場のことを聞きました。『シンプルで地方に近い』と。だけど、見るのと聞くのでは違う。内ラチ沿いもなかなか開かない場面をよく見ます。行ってみないと分からないけど、イメージはしています」

 今年は1月の佐々木竹見カップ(川崎)でも優勝しており、大舞台には強い印象がある。WASJは抽選で騎乗馬が決まるため、抽選次第では、地方騎手として05年岩田康誠(当時兵庫)以来の優勝も見えてくる。

 「赤岡さんも永森君も勝利を挙げている。後輩の松木(大地=現兵庫=)もヤングジョッキーズで。みんな中央で勝っているのが嫌ですね(笑い)。高知で乗っているように、平常心で乗ります」

 2008年には年間売り上げが38億円台にまで落ち込んだ高知競馬だが、ネット投票の環境が整ったことで一昨年、昨年は900億円を超えるまでに急増しており、賞金もアップしてきた。高知競馬も宮川も、どん底からの復活。地元、そして地方競馬のプライドを胸に、中央、世界の名手との腕比べへと向かう。

 「ネットでの売り上げが伸びて、高知の騎手にも全国にたくさんのファンがいると思う。地方競馬代表として恥じないように、世界に通用する騎乗をしたいですね。宮川実の名前を世界に広げられるように頑張ります」(山下 優)

 高知初の女性調教師妻・真衣さんエール「いつも通り乗って」

 21年12月に高知競馬で初の女性調教師になった妻の真衣(旧姓別府)さんは、騎手時代にも女性騎手として国内歴代2位の747勝を挙げ、スポーツ報知のG1予想コラムでも活躍した。14年のチューリップ賞でクロスオーバーに騎乗(12着)しており、JRA参戦では“先輩”。「当時は(1着ハープスターなど)すごい馬ばかりで全然緊張しなかった」と懐かしんだ。宮川とは18年9月に結婚。今年生まれた第1子にデレデレというパパに「大舞台だからと言っても緊張せず、平常心だといい結果が出ると思うので、いつも通りに乗ってきてください」とエールを送った。

 【取材後記】落馬で失明しても、そのハンデを受け入れて復帰し、活躍を続ける。宮川の落ち着き払った姿から感じられたのは、強じんな精神力そのものだった。私も以前、育成牧場で競走馬に乗っていたが、その経験から想像すると、一方の目だけでは視野が狭くなって体のバランスが崩れ、間違いなく恐怖心が出てくる。リーディング獲得までには、「人並み外れた努力」などという陳腐な言葉では言い表せない壮絶な道のりがあったはずだ。WASJは高知競馬の開催と重なるため、他騎手は応援に行くことができない。ただ、その家族らが妻の真衣さんとともに、大応援団を組んで札幌に向かうという。宮川がすさまじい闘いをしてきたことを、高知の仲間たちはみんな分かっている。宮川のJRA初参戦は、「チーム高知」一丸の戦いだ。

 ◆宮川 実(みやがわ・みのる)1982年2月10日、高知県生まれ。41歳。99年9月に高知・打越初男厩舎からデビューし、同年10月に初勝利。09年5月の落馬負傷で1年間休養した。10年5月に復帰し、昨年は136勝を挙げて初の高知競馬リーディング。22日現在、地方競馬通算1万3881戦で2215勝を挙げる。趣味は旅行、釣り、サーフィン。

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