◆第84回菊花賞・G1(10月22日、京都・芝3000メートル)
皐月賞馬と日本ダービー馬が23年ぶりに対決する3冠最終戦、第84回菊花賞・G1は22日、京都競馬場で行われる。3歳馬の頂点に立った2冠目からの直行となるタスティエーラのキャロットファーム・秋田博章社長をインタビュー。“常識破り”の挑戦となった理由などを赤裸々に明かした。
タスティエーラは皐月賞2着から挑んだ日本ダービーをわずか首差しのぎ切り、17年レイデオロ以来、クラブでは2頭目となる3歳馬の頂点に立った。
「うれしかったですね。たとえ能力があったとしても、体調をはじめとする他のファクターがそろわないと勝てないレースですから。これまでより躍動感が増すなど、追い切りの動きが良くなってきたところで本番を迎えられたのは何よりでした。ジョッキーの好騎乗や、そういった部分がうまくかみ合ったなというところです」
デビュー前から素質を高く評価していたが、頂点に立つ存在になるまでは想像していなかったという。
「牧場時代からバランスのいいフットワークをする馬だなと思っていて期待はしていましたが、ダービー馬になるというところまでは想像していなかったですね。血統が良くても前向きさがなければダメですし、仮に全てがそろっていても展開が向かなければ勝つことは難しいレースです。秘めたる成長力もすごかったんだと思います」
順風満帆ではなかった。入厩直前の2歳3月にトモ(後肢)を痛め、3か月程度の休養を余儀なくされた。始動戦は秋へずれこみ、2歳時はわずか1戦。この誤算がのちのローテーションに影響を及ぼすことになった。
「3歳春のクラシックを考えた場合、2歳のうちにオープンに上がっておくことが理想です。アクシデントで2歳時は1勝のみにとどまり、その状態で年明けを迎えなければならなかった」
年明けの共同通信杯は4着に終わり、賞金加算がかなわなかった。次戦で報知杯弥生賞ディープインパクト記念を勝利したものの「どうしてもレース間隔が詰まるローテーションになってしまいました」。ダービーへの臨戦過程を考えると、その一戦を使わなければならなかったことが痛かった。
ダービー直後は秋の目標をどこにするか頭を巡らせていたが、7月上旬に3冠最終戦へ向かうことを決断。だが、ダービーの疲れが抜けきらず、8月中旬にはトライアルを使わない方向性を固めた。「万全な状態じゃないと使いたくないのでパスしました。春のレースが予定より1つ多かったということもあったんだと思います」。9月21日に美浦へ帰厩し、直行で未知の距離へと挑むことになった。
これまでダービーからぶっつけで参戦し、勝利した例はない。グレード制が導入された84年以降では5頭が参戦し、いずれも人気薄だったが、21年ディープモンスターの5着が最高だ=別掲表=。異例ともいえるローテで初の3000メートルへの常識破りの挑戦になる。
「父の父マルジュはマイルのG1勝ち馬で、母パルティトゥーラもマイラーですが、父サトノクラウン【注】や母の父マンハッタンカフェは中長距離で活躍した馬ですし、何より本馬が2400メートルを勝ち切ったというあたりを見るとスタミナ自体はある方じゃないかと思います」
不屈の闘志で戦い抜いたダービーでの勝負強さを見る限り、あと600メートルの距離延長を克服する可能性は十分感じられる。もちろん、ひと夏を越したことによる成長も大きなカギを握る。
「背が伸びて体重も増えるなど、外見上の成長ははっきり確認できます。ただ、どれぐらい内面(心肺機能)が良くなっているかという点は、速い追い切りをかけてみないと分からない部分もありますね。3000メートルの菊花賞だからといって、必ずステイヤーの血を持っていないと勝てないということはありません。近年は瞬発力勝負になることも多いですからね。実際にこの血統で?という馬が勝ったりしていますし、道中の流れひとつで結果は変わってくると思います」
今回は皐月賞で後じんを拝したソールオリエンスに、トライアルの神戸新聞杯を制したサトノグランツなども参戦する。
「ダービー上位組もそうですし、出走全馬がライバルだと思っています。ただ、底力のあるキタサンブラック産駒で、実際にG1を勝っているソールオリエンスはやはり強敵だと思います。ゴールドシップやセイウンスカイなど皐月賞馬が勝っている歴史もありますしね。ステイヤーという点ではサトノグランツも怖い一頭ですね。前走は追って追って最後にビュッと脚を使ったあたりにスタミナがあるなという印象を受けました」
もう一頭注目するのが、同クラブ所属のドゥレッツァ。昨年11月の初勝利から前走の日本海S(3勝クラス)まで4連勝で駒を進めてきた上がり馬だ。「まだまだ底を見せていませんし、特に瞬発力には素晴らしいものがあるので展開次第では面白い存在だと思っています」。最大のライバルは“身内”にいるのかもしれない。
(聞き手・石行 佑介)
◆秋田 博章(あきた・ひろあき)1948年2月25日、北海道生まれ。75歳。80年代に旧社台ファームに入り、93年にノーザンファームの場長に就任。ディープインパクト、キングカメハメハ、ジェンティルドンナなど数多くの名馬の生産、育成に携ってきた。13年に同ファーム顧問。15年3月からキャロットクラブの取締役となり、18年12月にはキャロットファームの代表取締役に就任した。
同じキャロットのスルーセブンシーズ凱旋門賞4着健闘
1日にはクラブ所属のスルーセブンシーズが日本馬初の勝利を目指し凱旋門賞に挑戦した。結果は4着に終わったものの、最後の直線での強烈な差し脚は、改めて欧州の深い芝への適性を示した。「現地で調教している馬たちに比べても、馬場に合ったフットワークをしているなと思いました。あのフットワークを見て正直やれると思いましたね」と悔しさのなかに手応えをにじませた。
クラブの規定で来年3月までに引退することが決まっており、再び参戦することはかなわない。だが、夢はまだ志半ばだ。「適性を見せたスルーセブンシーズの子供で凱旋門賞に挑戦できたら、と思っています。実際にそういう馬を輩出してほしいですし、その際は母を超える成績を残してほしいですね」。果たせなかった“世界一”の夢は子供たちに託される。
◆皐月賞馬と日本ダービー馬の激突 菊花賞に皐月賞馬とダービー馬がともに参戦した例は過去に16回。皐月賞馬が5勝(2着2回、3着2回)、ダービー馬は1勝(2着2回、3着1回)にとどまる。ワンツーは2度あり、1973年にダービー馬タケホープ→皐月賞馬ハイセイコー、98年が皐月賞馬セイウンスカイ→ダービー馬スペシャルウィークだった。今年そろい踏みが実現すれば、2000年(皐月賞馬エアシャカール1着、ダービー馬アグネスフライト5着)以来の23年ぶりとなる。