3月に調教師に転身する秋山真一郎騎手(45)=栗東・フリー=が、25日に引退式も行われる小倉で最後の騎乗を迎える。97年のデビューからJRA通算1058勝を挙げた現役生活を振り返った。
27年の騎手生活で、ここまで通算1058もの勝ち星を積み重ねてきた秋山真は、今週25日の小倉競馬でステッキを置く。そんな名手が「今でも悔しい」と自ら切り出したのが、07年のオークスだ。
同世代の牝馬はウオッカがダービーに向かい、桜花賞を勝ったダイワスカーレットが発熱で回避した。1番人気に支持されたのがトライアルのフローラSを制した、ベッラレイアと秋山真のコンビだった。「流れが来ているな、と思っちゃったんですよね」。直線坂上では完全に先頭に立ったが、ゴール前でローブデコルテにかわされて鼻差2着。初のG1制覇をあと少しで逃してしまった。その差はわずか9センチ。「情けなくなりました。これでも勝てないのかと。今思えば、浮き足だっていて、馬が走りやすい位置で乗ることができていなかった。扶助の仕方で、あの差は何とかなったのでは」と語る表情は、たった今レースを終えたばかりの騎手そのものだ。
「あのオークスで、騎手人生が変わったと言っていい。もっとうまくならないと、と思った」。悔しさを糧にした秋山真は、それから最適なバランスや、重心の位置などを突き詰めて乗るようになった。12年のNHKマイルCをベッラレイアと同じ栗東・平田厩舎のカレンブラックヒルで勝ち、G1の1番人気での重圧にも打ち勝った。同年の阪神JFもローブティサージュで勝利し、G1を2勝した。
18年の4月には福島牝馬Sをキンショーユキヒメで勝ち、史上5人目となるJRA全10場重賞制覇の記録も達成した。関係者からの信頼と、確かな技術がないとできない記録だ。
調教師試験に一発で合格し、3月からは技術調教師となる。騎手時代の同期で、「早くから調教師になって、尊敬しかない」という武幸調教師のもとで研さんを重ねる予定だ。「乗り手におとなしい、乗りやすいと言われる馬をつくっていきたいですね」と表情を引き締めた。
「(調教師試験合格から)ここまであっという間。楽しかったね。できることなら、一生ジョッキーでいたかった」と本音もちらりと吐露したが、最終日の25日は多くの騎乗依頼が舞い込んでいるそうだ。「やばいっすね。頑張りどころですよ」とうれしそうに笑った。大好きな騎手の誇りを胸に、秋山真は最後の雄姿を披露する。(山下 優)
◆秋山 真一郎(あきやま・しんいちろう)1979年2月9日、滋賀県生まれ。45歳。97年3月1日に栗東・野村彰彦厩舎所属でデビュー。同9日の中京で初勝利。98年神戸新聞杯のカネトシガバナーで重賞初V。同期に江田勇、勝浦、武士沢、武幸調教師、村田調教師がいる。JRA通算1058勝。重賞は12年NHKマイルC(カレンブラックヒル)、阪神JF(ローブティサージュ)のG12勝を含む38勝。引退セレモニーには元JRA騎手の父・忠一氏も駆けつける予定。167センチ、50キロ。血液型A。