ひなまつり当日の競馬場。響き渡った透き通るような場内アナウンスに、耳を傾けた人も多かったのではないだろうか。
ラジオNIKKEIの藤原菜々花アナウンサーが、3月3日の中山3RでJRA初の女性による場内実況を務めた。「最後の直線でもたついてしまい、いい脚で上がってきた馬をうまく伝えられなかった。聞いている方や関係者に申し訳ないというのが、一番最初に抱いた感想でした」と真っ先に反省の言葉が口をついた。
担当を告げられたのはレースの2日前。「ついに来たかというのと、この瞬間を迎えられて素直にうれしいなと思いました」。入社4年目にして巡ってきたデビューを素直に喜んだ。
本番前は意外にも緊張を感じていなかったそうで、このままなら行けると思ってファンファーレを迎えた。「自分の声が場内に響き渡っているのを聞いて、緊張感がグッと増しました。場内実況って、こういうことなんだな…という責任を感じた一日でした」。最近の練習では、ここまで崩れたことはなかったという。結果としてプレッシャーがあったと振り返る。
上司の中野雷太アナも「先輩の声が場内に響く中で練習してきて、それが自分の声になると不思議な感覚になるものです」と誰もが経験する“違和感”を説明。日々練習を重ねたプロでさえも感じる場内実況の難しさを痛感する初実況になった。
藤原アナが競馬に興味を持つきっかけになったのは、入社1年目の2020年。勤務として初めて競馬場に行ったのが、コントレイルが無敗で2冠制覇を決めた日本ダービーだった。「分からないながらも、最後の直線は感動して目が潤みました。いつも会社では冷静な小塚(歩)アナが、あんなに声を震わせて伝えるほど、すごいことなんだと。その声を聞いて震えました」と、当時受けた衝撃は鮮明に刻みこまれ、場内で実況をするという明確な目標を抱くようになった。
コロナの影響で1週間に1回しか競馬場に来ることができず、先輩が受けてきた研修とは随分と状況は違ったが、競馬への思いは募っていった。コントレイルの次に好きになったメイケイエールは、従姉妹がソダシ。そのような形で血統を含めて競馬の知識が派生していった。
そして、ついに迎えたデビュー日だったが、藤原アナの満足度はゼロ。「あくまで私たちは脇役で主役は馬や騎手、関係者。見ている方がレースだけに集中できるように、正確に分かりやすく。そういった実況を目指したい」。今回の反省を糧に、理想の実況を追い求めていく。
藤原アナのキャリアは始まったばかり。見守った中野ナが「競馬場の雰囲気がいつもと全然違って、これはこれで素敵な空間だなと思いました」と話したように、JRAに新たな風を吹き込んだ。女性騎手が当たり前のように活躍している競馬界の流れからも、女性アナウンサーの誕生は必然だったのかもしれない。また、近いうちに場内実況を耳にする機会が訪れることだろう。私も多くのファンの方々と同じように、藤原アナの“2戦目”を楽しみにしている。(中央競馬担当・浅子 祐貴)