◆第29回マーメイドS・G3(6月16日、京都・芝2000メートル、良)
牝馬限定のハンデ戦は16頭立てで争われ、最軽量タイのハンデ50キロで出走した4番人気のアリスヴェリテが逃げ切り重賞初制覇。初コンビだったデビュー4年目の永島まなみ騎手(21)=栗東・高橋康厩舎=は、10度目の挑戦での初タイトル獲得となった。JRAに所属する女性騎手の重賞勝利は藤田菜七子、今村聖奈に続いて3人目。
周りもペースも気にしない。永島は道中でアリスヴェリテとの“会話”だけに集中していた。1コーナーで先手を奪うと、向こう正面で後続を10馬身近く引き離す大逃げに持ち込んだ。前半5ハロン58秒3と速い流れ。しかし、初コンタクトでも迷いは一切なかった。「この馬のリズムを尊重して、気負わずに行けました」
大きなリードを保ったままで迎えた直線。ラスト300メートルで右ステッキを2発入れると、ターフビジョンに目をやった。徐々に聞こえてくる後続馬の蹄音。「何とか粘ってくれという気持ちでした」。祈りを込めた右ステッキを振り下ろし、左腕で懸命に手綱を押した。全身を使った走りは最後まで勢いを失わない。格上挑戦での2馬身差完勝。ゴール直後に右手を強く握りしめ、ねぎらうようにポンポンと相棒の首筋を4度優しく叩いた。
JRA所属の女性騎手による3度目の重賞制覇。日頃からアドバイスをもらうことも多い坂井や西村淳など多くの人からかけられた「おめでとう」の声、スタンドからの大きな祝福の拍手が勝利の重みを教えてくれた。「本当にとてもうれしいです。これまで支えてくださった方に感謝の気持ちでいっぱいです」。レース後に何度も口を突いたのは「感謝」という言葉。誰からも愛される永島らしかった。
レース直後の検量室前。22年秋からバレットを務める姉・みなみさんは涙を流し、グータッチをかわした。「ホッとしたというのが一番大きいですね」。負けず嫌いだけど繊細という妹を子供の頃から温かく見守ってきた。「しょっちゅう、テレビ電話をしてくるんですよね。母とも1時間ぐらい話しているみたいです」。その母もスタンドで見守る中、父の日に届けた大きな勝利。家族みんなに最高のプレゼントを届けることができた。
特技を「どこでも寝られること。移動中などはずっと寝ています」と明かす21歳は、デビュー4年目でJRA通算100勝にも「あと3」。視線は常に上を向いている。「現状に満足せずに頑張っていきたい。もっと大きな舞台でも頑張りたいと思います」。蒸し暑い京都に、さわやかな風を吹き込んだ逃亡劇。永島の熱い夏が最高の形で始まった。(山本 武志)
兵庫競馬・永島太郎調教師(永島の父)「レースは当然、見ていました。4コーナーを回った時に(手応えもよく)勝ってしまうのではと思ったので、最後の直線は『頑張れ』という気持ちでした。ゴールした瞬間は素直にうれしかったです。デビューして4年目ですが、騎手に必要である下半身を中心にした体の強化を頑張っていたのは分かっていました。それでも、まだまだです。きょうのレースも馬が強かったからだと思います。月並みな言葉ですけど、騎手という仕事は騎乗させてもらうことがすべて。さらに技術を磨いて、乗せてもらえるように頑張ってほしいです」
〇…永島の師匠、高橋康調教師は北海道へ行くため、空港へ向かう電車の中でレースを観戦した。「冷静な顔をしていましたが、飛び上がりそうでした。うれしいしかないですね」と喜んだ。自身が元騎手だったこともあり、成長を温かく見守ってきた。「デビューした頃から変わらない探求心と努力のたまものでしょう。彼女の目指す騎手像に徐々に近づいてほしい」とエールを送った。
◆永島 まなみ(ながしま・まなみ)2002年10月27日、兵庫県生まれ。21歳。21年3月6日に栗東・高橋康之厩舎からデビュー。同月14日にアクイールでJRA初勝利を挙げた。23年の第1回福島では開催リーディングを獲得。父は園田の元騎手で、現調教師の太郎さん。趣味は料理。JRA通算97勝、重賞1勝。159.8センチ、45.4キロ。血液型A。
アリスヴェリテ 父キズナ、母ルミエールヴェリテ(父コジーン)。栗東・中竹和也厩舎所属の牝4歳。北海道新冠町・(株)ノースヒルズの生産。通算19戦4勝。総獲得賞金は1億1734万1000円。重賞初勝利。馬主は加藤誠氏。