温泉を楽しんでいるのは人間だけではない―この時期の函館競馬の風物詩といえば『馬の温泉』ということで、函館出張中の私は、気になっていた函館競馬場の温泉施設を取材。自身も温泉ソムリエの資格を取得するJRA獣医師の村中雅則さんに案内していただきました。
そもそも競走馬の温泉は、1962年に湯の川温泉の「大湯温泉」内に温泉療養施設を開設したのが始まり。当時は人がまたがる形で入浴しており、貴重な資料写真を見せていただきました。鐙(あぶみ)のすぐ下あたりまでお湯があり、馬が動く度に騎乗者が濡れるシーンを想像。寒い時期は人が大変だったことでしょう。
人馬ともに温泉の効果は基本的に同じ。リフレッシュ効果や関節炎、筋肉痛に効くと言われており、追い切り後や、連戦が続いた馬が多く利用。その反面「(入泉)爪がふやける→乾いて硬くなる→(入泉)爪がふやけるを繰り返すと、爪が悪くなるリスクもある」と村中獣医。また「競馬中に馬がリラックスしすぎても」と考える関係者もいるそうで、温泉を取り入れる厩舎と利用しない厩舎に分かれている。
取材中にぶらりと温泉にやってきたのは、今回が2度目の利用になる5歳馬。人も体を洗ってからお湯につかる方が多いように、当施設でも最初にシャワーで体全体の汚れを落としてから温泉へ。軽やかな脚取りで入浴位置へ向かうと、徐々に目がうつろになっていく。舌をペロンペロンとリラックスした様子を見せ、気持ちよさそうに温泉につかっていた。その光景を見た私も、ついほほ笑んでしまうような、ほのぼのとした空間。初めて利用する時には怖がる馬もいるそうだが、気持ち良さを分かった馬はスムーズに入浴していく。「気持ち良すぎて、コクリコクリと舟をこぐ馬、寒い時期には温泉から出ようとしない馬もいますよ」と村中獣医からは面白いエピソードも。人間も馬も変わりがないようです。
過去にはナリタブライアンやカネヒキリといった名馬も英気を養った函館競馬場内にある馬の温泉。源泉は温泉街として有名な湯の川温泉で、その魅力を感じているのは人間だけでない。利用した馬たちにとっては心身ともにリフレッシュできる場として、次の戦いへ向かう活力になっている。(浅子 祐貴)