厳しい暑さとともに白熱する夏競馬。主に注目がされるのは重賞や新馬戦だが、この時期の3歳未勝利は、タイムリミットが迫るという意味で、ひと味違う争いが繰り広げられている。
JRAで勝利を挙げられるのは、サラブレット全体の約3頭に1頭。半数以上の馬はJRAで勝利することができない。さらに未勝利終了が迫るこの時期は、レースに出走するという壁もクリアしなくてはならない。出走への主なルールは、1か月以内に5着以内の実績が最優先され、その次に未出走馬、出走間隔が長い馬という形で決まっていき、それに加えてブロック制(関東、関西の主場は、それぞれの地区が優先)も絡んでくる。また、2022年からは3歳時に(デビュー戦を除く)9着以下が3走続いた場合に、2か月間出走できないというスリーアウト制を採用している。
ある調教師は「どこかで(抹消の)決断が必要になる。ホースマンとして見切りを早くするのはどうなのかと思う反面で、馬主や会員の負担を考えると…という葛藤がある」と、スリーアウトが迫る馬に対してシビアな選択をしなくてはならない複雑な思いを明かす。厩舎スタッフは「これで最後なのかも…と思いながら、パドックで一緒に歩くこともある。やっぱり意識はする」と、普段と違った感情を抱きながらレースに臨むこともある。
そういった馬が挽回できるケースはまれだが、スリーアウトの危機から初勝利が視界に入るところまでやってきた馬がいる。ランドエース(牝3歳、美浦・武藤善則厩舎、父ワールドエース)は、昨年12月16日のデビュー戦(ダート1200メートル)で12着。間隔を空けた4月13日の未勝利戦(芝1200メートル)でも11着に敗れると、同27日には距離を1600メートルに延ばすもハイペースに巻き込まれて17着。この時点でツーアウト(3歳時の11着と17着が該当)となり、次走で9着以下になった時点で、2か月間出走できない厳しい状況に追い込まれていた。
「結果を見て抹消を考えたけど、騎乗した石橋(脩)騎手が『1200メートルなら見どころがある』と。オーナーと協議をして、1回チャンスを増やすために2か月間隔を空けて(2か月以上の間隔を空けると、1走はスリーアウトの対象外)1200メートルを使うことにした」。武藤調教師は鞍上の意見を参考に、JRAでの現役続行を決断。その進言通りに距離を短縮した6月30日の未勝利戦で5着に好走すると、7月7日には好位からしぶとく脚を伸ばして0秒3差の3着と見せ場をつくった。
担当する阿部助手は「体は小さいけど、気が強くて一生懸命。ようやくかみ合い始めたかなという感じ」と着順が上がってきた愛馬を見つめる。この時期は一つの着順の違いが、その後の進退を大きく左右しかねない。JRAで勝てなかったとしても、少しでもいい成績を収めることで、地方馬主の目に留まり、抹消後の道が開ける可能性は高まる。同助手は「この時期は、なんとかして勝たせてあげたい。どうしても間隔を詰めて使う馬が多くなるので、楽をさせる部分をつくって状態を維持させつつ、少しでも走れる状態で送り出して、頑張ってくれるように」。
ランドエースは来週の新潟競馬で出走を予定。8日の美浦トレセンでは、1ハロン15程度の調教を消化した。疲れを取りつつ、力を出し切れる状態を整えている。残り少ないチャンスだが、これからも、ともに戦えるように―。この時期はどの関係者もその思いで競馬場へ送り出すための努力を重ねている。
未勝利が行われるのは、今週を含めて残り4週。まず、未勝利戦に出走することの大変さ。そして関係者の葛藤や胸に秘めた思いを感じながら、死力を尽くす人馬の姿を脳裏に焼き付けてほしい。(中央競馬担当・浅子 祐貴)