20年から昨年まで3年連続でNAR4歳以上最優秀牝馬に輝くなど、長きに渡って活躍したサルサディオーネ(牝9歳、大井・堀千亜樹厩舎)が1日のエンプレス杯(5着)を最後に引退。6日には、大井競馬場で引退セレモニーが行われた。初勝利や18年クイーン賞2着など、中央所属時に11戦の手綱を執った丸山元気騎手も駆けつけ、重賞初制覇を飾った時に騎乗した岩田康誠騎手からの花束を贈呈するサプライズ演出もあった。中央と地方の垣根を超えたセレモニーは、映像で観ていても温かい雰囲気を感じた。この後は北海道で繁殖生活を送り、初年度はオルフェーヴルと交配すると聞く。個性派の三冠馬と、逃げたら渋太い母の仔の誕生を心待ちにしたい。
サルサディオーネは、青森県東北町の荒谷牧場で生産された。荒谷牧場は、繁殖牝馬のみならず、種牡馬のウインバリアシオンとオールブラッシュも繋(けい)養している。サルサディオーネのほか、21年道営記念2着のオタクインパクトや、北海道所属で06年ラベンダー賞を制したインパーフェクトなどが、代表的な生産馬だ。
馬産地として、青森県全体で考えると、キョウエイギア(村上幹夫氏生産)が16年ジャパンダートダービーを、ミライヘノツバサ(諏訪牧場生産)が20年ダイヤモンドSを制すなど、少ない生産頭数の中でも、全国区の活躍馬を送り出している。東北の馬産は、22年の生産頭数が85頭(青森80頭、宮城5頭)で前年並みに推移。九州が83頭(熊本26頭、宮崎20頭、鹿児島37頭)と、この2ブロックはほぼ同じ頭数を生産している。青森、熊本、宮崎、鹿児島の繁殖牝馬の登録頭数は、前年よりそれぞれ10頭前後増えており、北海道以外の馬産も、少しずつだが活気が戻りつつある。
九州は、JRA小倉で施行されるひまわり賞や九州産限定の新馬戦、佐賀で行われる霧島賞やたんぽぽ賞を中心に、JRA交流が実施されるなど、九州産馬のレース体系が整備されている。長年の地区限定競走の経験と、九州軽種馬協会が「九州産の灯を消してはならない」という強い思いが、九州産馬をブランディングできたと感じる。
一方、青森を中心とした東北産馬のレースと言えば、岩手競馬で03年から08年(07年は休止)まで、銀河賞という東北産限定の1勝クラス交流が行われていた。福島競馬があるからと言って、今から東北産限定を福島を舞台に…と言うのは無理なお願いだとは、さすがに感じる。しかし、岩手競馬では実際に行った実績があり、盛岡を舞台に銀河賞を復活させることは可能なはずだ。岩手競馬で唯一、2勝クラス交流で秋に施行される東京カップけやき賞は、中央馬と地元馬の実力差がはっきりしすぎているので、地元馬が思うようにそろわない傾向がある。提案として、この2勝クラス交流を、東北産限定とし、力量差を少なくさせる。霧島賞でも、1勝クラスから出走するケースもあり得るので、逆に地元馬にチャンスが生まれる可能性もある。2勝クラスを頂点とすれば、未勝利交流と1勝クラス交流も、予選的な形で行われる。これは、佐賀競馬が実施しているスタイルを見習えば良い。
JBBA七戸種馬場には、エスケンデレヤが移動してきた。ウインバリアシオンとオールブラッシュとともに、産駒が堅実に駆けているエスケンデレヤへの関心は青森でも非常に高い。岩手競馬と東北軽種馬協会が協力し、青森の軽種馬業界を盛り上げていってほしい。
(競馬ライター)