デビュー4年目の秋山稔樹騎手(22)=美浦・蛯名利弘厩舎=は、今年の5月30日から約3か月に渡り、初めて栗東修行を行った。その成果は? 聞く機会を得たのは11月に入ってから。人もまばらになったある日の調教終わりの美浦トレセンで約2時間、話し込んだ。
「ローカルを回ることも多いので、より多くの人脈をつくりたかったんです」―。デビュー年にJRAで17勝をマーク。2年目はさらに42勝を積み重ねた。3年目はほぼ1年間、減量が1キロ減の中で20勝を挙げ踏ん張ったが、今年は栗東に行くまでは1勝止まり。乗り方、考え方、営業の仕方を変えたが、手応えを感じられず、「踏ん張り切れなかった」と、目先を変える意味でも環境を変えたという。
師匠の蛯名利調教師の紹介で受け入れてくれた宮厩舎に拠点を置きながら、栗東の厩舎すべてを回り、自身を売り込んだ。「会えなかった先生もいましたが、助手さんとかにも声をかけさせていただきました」。
宮厩舎だけでなく、他厩舎の調教にも積極的に乗るなど、努力を重ね、レースでも今まで頼まれたことのなかった厩舎からの騎乗依頼がくるなど、徐々に手応えを感じるまでになり、勝ち鞍もお世話になった宮厩舎の馬で2勝を挙げた。「行く前は1勝しかしていなかったので、人脈をつくれればと思っていましたが、予想以上に乗せていただけた。宮厩舎の馬で結果を出せて少しでも恩返しできたのは良かったと思います。次につながるステップは踏めました」と納得の表情を浮かべる。
新たな気づきもあった。騎手の乗り方は人それぞれ特性があるが、秋山は「馬を動かすタイプではないと思っていました」と感じていた自分のスタイルを、栗東滞在中に、「意識的に動かしてみようという思いが芽生えてきたんですよね」。自身を考えすぎると分析するが、新たな環境で感じた思いのままに、自分の新たなスタイルに取り組んでいる。「考えすぎて結局は自分本位の乗り方になっていました。自分が楽に乗れていない時は、馬もきついと思う。いるべき位置、バランスを探し、しまいどれだけ動かせるかにフォーカスしています」と話す。
今年はここまで5勝。数字的には結果には現れていないが、経験を決して無駄にする気はない。「間違っているからかもしれないし、来週には考え方も乗り方も変わっているかもしれないけど、栗東に行ったことも含めて、やらないで後悔するのが一番嫌ですからね」と前だけを向く。
毎朝の調教前、約1時間のトレーニングを4年間やり続けている努力家。「いつか夢とか感動を与えられる、そんな騎手になりたいんです。そのためにも自分にウソはつきたくない」と心に誓う。今に甘んじることなく走り続ける22歳が、これから何を見つけ、つかむのか、注目していきたい。
(中央競馬担当・松末 守司)