笑顔の裏に譲れない思いを隠している―。今年、デビュー16年目の丸田恭介(35)=美浦=に、密かに注目している。今年、「年男」を迎えるが、何も年男だから期待している訳ではない。
以前は、3場開催の時は、中山、東京ではなく、福島や新潟、いわゆるローカル場を主戦としていたが、昨年から軸足を主戦場においた。若手の台頭もあり、乗り鞍を集めるのも大変だが、変化を求めた。すべては「G1を勝てる騎手」になるためだ。
「もう少し前から考えていたことで、年齢的にもいいタイミングだと思って。大それたことではなくて、本場はG1と同じ舞台で行われるレースが多いので。そこで、勝っている騎手がどんな攻め方をして、どんな乗り方をするのか肌で感じられる。ローカルとはまた違った、そういう舞台で戦える引き出しを増やしたかったんですよね。そのことによって自分の成績が、上がるとか下がるとかではなく、純粋に馬に乗りたいんです」。
いつも笑みを浮かべ、丸ちゃんの愛称で親しまれ、競馬ファンには「穴メーカー」として知られるが、自身の置かれた立場に決して甘んじることはない。「ジョッキーになった以上、常にG1に乗って結果を出すことを目指していかないと。今を受け入れたら上にいけないから。1番人気で勝つ騎手にならないと」と高みを見つめる。
昨年、こんなことがあった。1勝を挙げ2着もあったその週明け、周囲から「おめでとう」と声をかけられるといつものスマイルだったが、勝負師としての本心ものぞかせた。「勝っている騎手は1勝ではおめでとうって言われないですよね。もちろん、1勝することは大変だし、うれしいけど、僕は今、そういう騎手なんですよね。もっと結果を出さないと」と強い口調で言った。いつもの笑顔はなく、グッと力を宿した表情は「きっといつかやる」、そう思わせるには十分だった。
丸ちゃんの取材は普段から多くの時間を要する。「この馬はこういうところがあるから、こう乗ってみようか。こんな乗り方もあるけど、こう乗ったらどうなるだろう…」。本人が1頭の馬と対峙する時間が長いゆえ、当然、こちらとのやりとりも長くなる。「自分は天才じゃないから」と、レース映像を何度も見返し、先輩騎手にはアドバイスを遠慮なく求め、自分のものに落とし込んでいく。膨大な作業を何年も積み重ねてきた。
昨年は、ホウオウイクセルでフラワーCを勝ち、桜花賞(9着)で17年の桜花賞(ライジングリーズン)以来のG1の舞台に立ち、秋華賞(16着)にも進んだ。さらに、年末のホープフルSでラーグルフの手綱を取り、自身のG1最高位となる3着に入った。新たな挑戦は、少しずつ形となって現れている。
年頭、報道陣に年男の抱負を聞かれると、具体的な数字は挙げなかったが、「勝ち数ではなく、勝ちにこだわりたい」と続けた。今週1月30日は、シルクロードS・G3にナランフレグで挑戦する。ラーグルフは報知杯弥生賞ディープインパクト記念・G2に出走する予定だ。また、どんな騎乗をみせてくれるのか。楽しみを持ってその背中を見続けたい。(中央競馬担当・松末守司)