◆第67回大阪杯・G1(4月2日、阪神競馬場・芝2000メートル)
第67回大阪杯(4月2日、阪神)でG1初制覇を狙う重賞2勝のノースブリッジは、20年11月から2年4か月以上の在厩という異例の調整過程での臨戦となる。レース後には放牧を挟む調整が主流の中、絶え間のない入念なケアを続けてのビッグタイトル挑戦だ。
2年以上にも及ぶ異例の長期在厩は“けがの功名”と言えるものだ。20年12月の葉牡丹賞でデビュー2連勝を飾った後、ノースブリッジは両前肢にひどい挫石を発症。出走を検討していた京成杯や共同通信杯を見送り、治療と平行しながら青葉賞へ向かった。奥村武調教師は「(生死にもかかわる)蹄葉炎になるリスクもあって、慎重にやる必要があった。何かあっても装蹄師や獣医に対応してもらえるように始まったんですけどね」と在厩スタートの事情を振り返る。
満足な出来になかった青葉賞は13着に終わったが、続くラジオNIKKEI賞は3着と地力を見せた。秋初戦のセントライト記念は直線で詰まって10着も、その頃には脚元の不安は解消されて復活の兆しが見えた。厩舎で過ごす様子に指揮官は「ここが自分の家みたいな顔をしているんですよ。オンとオフをちゃんとつけられて、能力的にも期待していたので、リズムを崩すよりはこのままやってみようと」と判断。そのまま今日に至るという。
厩舎ごとに割り当てられる馬房数が限られるため、レース後には短期放牧を挟むなどして在厩馬を入れ替えるのが調整の主流だ。あえて長く在厩させる方法は、トレーナーがかつて助手として所属した国枝厩舎のアパパネにヒントがあった。2010年の3冠牝馬も2歳10月に未勝利戦を勝ってから、在厩のまま現役生活を全う。奥村武師は「我の強い性格の馬を手の内に入れていきやすいと思った。あれを見ていなかったら、気づきもしなかったかも」と語る。厩舎スタッフと過ごす日々で信頼を積み上げ、ノースブリッジは前走のアメリカJCCで重賞2勝目を挙げるまでに成長を遂げた。
JRAによると、馬主が厩舎に支払う預託料(飼料、調教費など)は一頭1か月につき70万円程度。近郊の牧場に放牧するよりも経費がかかるため、奥村武師は「オーナー(井山登氏)のご理解があってですし、感謝しかありません」と深々とうなずく。勝てば馬主、厩舎とも初G1制覇。固い絆で結ばれたチームは、悲願へ向けて心を一つにしている。(坂本 達洋)
〈日々向き合いながら入念にケア〉
調教を担当する杉木誠助手は心身の成長を実感している。「エプソムCくらいまではやんちゃでしたけど、大人になってきました。レースごとに良くなっていると感じます」。21年11月のウェルカムSは大出遅れで12着に敗れ、その後は3週間ほど、縛るなどして入念にゲートを練習した。「怖くないんだよと理解させることができて、今につながっていると思います」と、日々向き合える在厩ならではのメリットを挙げる。
一方、オンとオフの切り替えを肌で感じているのが工藤悟厩務員。「我が強い荒々しい性格でしたけど、今は馬も流れが分かっています。かなり敏感で頭がいい」。89年にトレセンで働き始めてから初めて重賞制覇を果たした思い入れもひとしおの担当馬。「体重は変わらないが、獣医さんに『中身が詰まってきた』と言われました」と、ここにきての状態の良さに目を細める。