◆第73回安田記念・G1(6月4日、東京競馬場・芝1600メートル)
21年春までレースに携わる多くのホースマンを取り上げた「今週の仕事人」のコーナーが安田記念で3日にわたって復活する。1回目はソダシの担当で、来月末に引退を控える今浪隆利厩務員(64)。
別れが迫ってきた。今浪厩務員は本来、9月末に定年だが、体調を考慮して、6月末で引退する。ソダシの担当も今回で最後。「ソダシに触れるのも最後かなって思いは出てきた。でも、秋もある。今度はファンとして応援するよ」と口にする。
初入厩から約3年。ずっと寄り添ってきた。「強い馬に成長してくれた。見た目はかわいいけど、結構暴れたりする」。今も助手騎乗で出発する時は横に付き添って歩くなど細心の注意を払う。「最初はただ一生懸命に仕事したけど、だんだんと馬を無事に競馬に出すことが目標になった」
ひたすらに馬と向き合った。繊細で小柄な牝馬を手がけたときには人のいない夜の9時過ぎまで厩舎を訪れ、何度も小刻みにカイバを与えたこともある。「故障があった時はつらかった。でも、これだけの馬をやらせてもらえて、最高の人生だった」。担当馬はいつも「コイツ」と呼ぶ。まるで我が子に語りかけるような響き、穏やかな笑顔は愛情に満ちあふれている。
16歳で門を叩いた憧れの競馬界。その名を全国に知らしめたのは芦毛の怪物、ゴールドシップの担当時だ。「馬房に入る時もつないでいないと蹴ってくるし、とにかく大変でね」。調教で立ち上がっている写真には細い体で必死になだめる姿があった。「でも、得たものはそれ以上だった。夢を全部かなえてくれた。子供が走ってくれてうれしいね。大好きや」。もちろん、今年も北海道へ会いに行く。
多くの競馬ファンからも愛された仕事一筋の日々はひとまず終わりを告げる。「体調が良くなればヘルパー(補充員)も考えている。馬が好きだからね」。しかし、今は集大成の一戦へ愛馬を黙々と仕上げていく。「無事に走ってくるのが一番よ」。そう言うと、ソダシの待つ馬房へ優しい視線を向けた。(山下 優)
◆今浪 隆利(いまなみ・たかとし)1958年9月20日、福岡県生まれ。64歳。名古屋競馬の騎手見習い、北海道・優駿牧場を経て、栗東・内藤繁春厩舎から中尾正厩舎へ。09年の厩舎解散に伴い、同年開業の須貝厩舎に入った。担当馬でJRA・G1は10勝。趣味は温泉巡り。
〈体重戻って好気配〉○…ソダシは全休日の29日、厩舎で穏やかに過ごした。今浪厩務員は「競馬が終わってすぐに体重が戻ったのは何より」と中2週にも好気配を伝えた。週末は天気が下り坂の予報だが、「そんなに雨は苦にしないと思うよ。一生懸命走る馬やからね。で、レース後は一生懸命に洗うわ」と笑顔。川田との新コンビで復活Vを狙う。
◆ゴールドシップ 3歳時に皐月賞、菊花賞、有馬記念を制覇。古馬でもG1・3勝を積み重ねたが、一方で15年の宝塚記念では大出遅れから1番人気で15着惨敗。調教中にも急に立ち上がったりする「暴れん坊」で、競馬ファンからは個性派として愛された。種牡馬入り後は21年のオークスを制したユーバーレーベンなど、産駒はこれまで重賞を5勝している。