今夏の特別企画「夏の自由研究」では、東西のトレセン近くにある調教施設を兼ね備えた「外厩」をこれまで3か所取り上げてきた。最後は、これまで数多くのG1ホースを送り出してきた「ノーザンファーム天栄」を紹介する。福島県天栄村では現在、イクイノックスなど関東の有力馬が秋へ向けて“夏休み”を過ごしている。
東京ドーム約10個分の広大な敷地は圧巻の一言だ。傾斜36メートルの坂路、1周1200メートルの屋外周回コースなど充実した調教施設に、13厩舎355馬房を設置。茨城県の美浦トレセンから車で約2時間半で到着する福島県の自然豊かな山合いに「ノーザンファーム天栄」はある。
16~18年には3年連続でダービー馬(マカヒキ、レイデオロ、ワグネリアン)が在籍。20年からは3年連続(アーモンドアイ、エフフォーリア、イクイノックス)で年度代表馬に輝くなど、近代日本競馬を語る上で外せない施設では今、G1を4連勝しているイクイノックスが“夏休み”中だ。
一日は朝5時過ぎから始まる。ウォーキングマシンやトレッドミルで運動を済ませた後、周回コースや坂路で乗り込まれ、6時10分頃に終了。木実谷雄太場長は「そこから少し歩いたり、手入れをしても7時には終わっています。まだ気温が22~23度なので、馬も楽ですよね」と説明。涼しい時間帯に体を動かし、その後は馬房でゆっくり過ごして秋シーズン(現時点では11月26日のジャパンCを予定)へ英気を養う日々だ。
木実谷場長は現状に満足せず、さらなる高みを目指している。「今年の大きな目標として関東馬の出走回数を増やすというのがあって、基本的には牧場に戻ってきた馬を送り返すサイクルを早くする。それをスタッフ、獣医師みんなで頑張っているところです。現時点で前年比約15%増えていますし、勝率も下げずにこれていますので継続してやっていきたいです」。
充実した施設と現状の好成績にあぐらをかかず、常に進化を求める牧場スタッフの高い意識が名馬を輩出し続ける秘訣だ。(西山 智昭)
◆ノーザンファーム天栄 11年に開業。東京ドーム約10個分の敷地に13厩舎355馬房がある。16年に海外遠征時のための輸出検疫厩舎を開設。17年には傾斜を28メートルから36メートルに改修し、より負荷がかかる坂路が完成。他にも1周1200メートルの屋外周回コースに、屋内周回コース、屋内角馬場など充実した設備がそろっている。これまで数多くのG1馬を輩出し、現役はイクイノックス、ソングライン、シュネルマイスター、ジオグリフなどが利用している。スタッフは約140人。福島県岩瀬郡天栄村大字小川字中曽根1。
〈イクイノックス以外の関東有力馬もズラリ〉
イクイノックス以外の関東の有力馬も休養中だ。ヴィクトリアマイル、安田記念を連勝したソングラインはひと足早く夏休みに入ったこともあり、すでに同牧場で坂路入りを再開。木実谷場長は「2走しっかり走ってきたので、少し筋肉痛があったのですが、だいぶ取れてきて全体的な印象としては順調にきています」と説明。秋初戦は毎日王冠・G2(10月8日、東京)で、その後は米国のブリーダーズCマイル・G1(11月4日、サンタアニタパーク競馬場・芝1600メートル)遠征が視野に入っている。
また、宝塚記念でイクイノックスの2着に激走したスルーセブンシーズも。「イクイノックスは2走前のドバイ(・シーマクラシック1着)の後よりは楽な感じで戻ってきたのですが、こちらはさすがに激走したなという感じでした。ただ、思いのほか回復自体は順調ですね」と木実谷場長。オーナーのキャロットファームは凱旋門賞・仏G1(10月1日、パリロンシャン競馬場・芝2400メートル)に前向きな意思を示しており、今後も同牧場でじっくり調整が進められる。
函館記念で念願のタイトルを手にしたローシャムパークも北海道から戻ってきた。木実谷場長は「ようやく期待通り走ってくれたという感じです」と笑顔。次走はオールカマー・G2(9月24日、中山)の予定だ。昨年の年度代表馬を含め秋の飛躍が期待される関東4騎は順調に夏を過ごしている。