藤岡康太騎手のいない競馬が始まった。土曜に各競馬場で黙とうが捧げられ、徐々に現実として感じられるようになってきた。3年前まで競馬記者として現場にいた当時、優しさと気遣いに何度元気づけられたか。栗東の調教スタンドで交わした会話を思い出すと、まだ涙が出そうになる。
康太騎手はももいろクローバーZの大ファンで、私もそうだった。「モノノフ」を公言し、栗東トレセンではロゴと、イメージカラーがピンクの「あーりん」こと佐々木彩夏さんのステッカーを貼った原付バイクを愛用していた。特に好きだった曲は2010年にリリースされた「ピンキージョーンズ」で、「衝撃を受けました。いつも元気をもらっています」と熱く話してくれた。
特に「逆境 こそが チャンス だぜぃ」の歌詞が気に入っていたという。10番人気のジョーカプチーノで制した2009年のNHKマイルC。ピンク帽をかぶり、史上初めて当日の乗り替わりでG1制覇となった昨年のマイルCS(ナミュール)。天下取りを成し遂げたピカピカ光る2つのG1勝利が、このフレーズにぴったりマッチしていた。
子役時代の佐々木彩夏さんが、ダンスと歌を披露していた音楽教育用DVDを貸したこともあった。翌週には「貴重なものを見せていただき、本当にありがとうございます」と、とびきりの笑顔で感想を語ってくれたのが懐かしい。
競馬担当を離れた後、阪神競馬場に行く機会があった際には「お久しぶりです。『オーッ!』と思いました。お元気ですか?」と声をかけてくれた。こうしたさりげない優しさがあるから、誰からも愛されたのだと思う。
昨秋に競馬担当に復帰したが、もう康太さんと話ができないと思うと残念で仕方がない。無事に競馬が開催され、皆が無事にレースを終える。そんな週末が続いていくことを、心から願っています。(中央競馬担当・内尾 篤嗣)