2月に管理馬17頭が焼死し、全国ニュースでも取り上げられた奥山ファーム(北海道日高町)が、再起への一歩を踏み出した。このほどクラウドファンディングによる再建費用の募集を有志メンバーが開始。奥山昌志代表(43)は「再建のためにご支援いただければ」と協力を呼びかけた。
2月10日の早朝5時頃だった。繁殖厩舎から出火。敷地内の自宅にいた奥山代表はスタッフからの連絡で慌てて駆けつけたが、様変わりした光景に「何が起こっているのか分からなかった」と当時を振り返る。「救わなければ」の一心で何とか1頭を救うことはできたが、熱風と煙の前に泣き崩れるスタッフとともに立ちつくすしかなかった。管理する18頭のうち17頭が犠牲になり、厩舎は全焼した。
20年のCBC賞を制したラブカンプーの生産牧場。預託馬が増えてきたことで敷地が手狭になり、新たに土地を購入するなど事業拡大のビジョンを描いていた矢先だった。各所への対応を終え帰宅した後は「何も考えることができなかった」と泣き明かした。大事な馬たちを死なせてしまった自責の念と今後への不安が頭を駆け巡り、「牧場を辞めなければいけないのではないか」と存続も危ぶまれる状況だった。
しかし、知り合いだけでなく、大手の同業者をはじめ、他業種で活躍する方からも励ましの声が届いた。「色んな方から慰めや激励をいただいた」。いつまでも立ち止まっているわけにはいかない。再建に向けて動き始めると、様々な面で助けてくれる人が現れた。クラウドファンディングもその一つだ。「迷惑をかけてしまったのにお金を募るのは心苦しい」が本心だが、支援を募ることにした。
再建費用は約4000万円を見積もる。クラウドファンディングは1200万円を最終目標金額に設定し、5月1日まで支援を募る。「現時点でもびっくりするくらいの支援が集まり、言葉にならない気持ちです」。一方で期待に応えなければと痛感する日々でもある。以前から対策は講じていたが、今後はさらに防災対策を強化する予定だ。「二度とあのようなことが起きない厩舎をつくっていく」。それが火災後も信頼してくれるオーナーや、支援してくれた大勢の方への恩返しになる。(浅子 祐貴)
【取材後記】奥山ファームとのつながりは私が大学2年生の時に2週間の住み込みで牧場体験をさせていただいたことが始まりでした。初心者の私を快く受け入れて下さり、セリ会場に同行するなど貴重な経験をさせてもらいました。牧場就職後も気にかけていただき、今日の私があるのは奥山ファームがきっかけと言っても過言ではありません。火災当時から力になりたいと考えていましたが、私も微力ながら今回、支援させていただきました。再建と今後のご活躍を期待しております。(浅子 祐貴)
◆奥山ファーム 北海道日高町正和16―1。1975年に奥山喜右衛門さんが開業し、博さん、昌志さんと父子3代に渡って牧場を営む。競走馬の生産、育成などを行う。主な生産馬は20年のCBC賞・G3を制したラブカンプー。焼失した繁殖厩舎以外の馬の管理を続けている。クラウドファンディングでの支援の詳細は「https://readyfor.jp/projects/okuyamafarm」まで。