春のG1シリーズが幕を閉じ、いよいよ今週から福島、小倉が開幕。本格的な夏競馬が始まる。馬トク報知はこの夏も様々な話題をお届けする「夏の自由研究」を随時掲載。第1弾は三重・鈴鹿市に今月1日にオープンした社台ファーム(F)の外厩施設「社台F鈴鹿」に山下優記者が潜入。1キロ以上と圧倒的な長さを誇る坂路など、新たに誕生した関西圏の“前線基地”をリポートする。
思った以上に近い。栗東トレセンから高速道路を車で50分ほど。F1日本グランプリが行われることで有名な三重県鈴鹿市に、新たな外厩施設「社台F鈴鹿」が今月1日、開業した。環境は、まさに森林だ。隣接するゴルフ場の一部を買い取り、東京ドーム約4個分の広さ。周囲は木々に囲まれ、静けさに鳥のさえずりが響く。ああ、ここは癒やしのパラダイス。
開業から1か月弱で、現在は2厩舎50馬房が稼働。とにかく馬がとてもリラックスしながら運動している。トレセンと雰囲気が違い、自然に近い環境でメンタル面のリセットに適しているのは間違いない。
目玉は1100メートルもの長さを誇る、日本最大級の直線坂路だ。高低差は38メートルで、勾配は3・5%。栗東トレセンの高低差32メートルで勾配2・6%を上回る。さっそく頂きに上がらせてもらう。うーん、絶景。スタート地点まで1キロ以上も真一文字につながるコースは圧巻だ。調教総括を務める斎藤孝主任は「自然の地形を生かしての傾斜なので、理想的ですね」と人の手を加えていない地形が馬の強化につながると胸を張った。
厩舎内は天井の高いつくりで開放感があり、ミストやエアコンも完備。ただ、こちらも気持ちがいいのは自然に吹き抜ける風。馬にとって居心地の良さを優先したつくりが随所に見られる。昨年のブリーダーズCクラシック2着のデルマソトガケも在厩しており「坂路を使っていますが、筋肉が戻ってきました」と斎藤主任も手応えを感じている。
社台Fの施設には山元トレセン(宮城県山元町)があるが、栗東からはかなり離れている。社台系の関西馬にとって、社台F鈴鹿の開業は大きい。斎藤主任は「これまで通り山元を使う馬もいるし、北海道の社台も含めて、選択肢が増えたということですね」とうなずいた。馬房数が増えれば、直線坂路を利用するために関東馬が来ることも十分に考えられる。
今年、社台F生産馬は日本ダービーを制したダノンデサイルなどG1・4勝。昨年の3勝をすでに上回った。「各部門が努力している結果が出てきた。結果が全ての世界だけど、失敗も大切な経験ですから。ベストを尽くすために、みんなで仲良く仕事をしていくことが重要です。これは社長(吉田照哉代表)の方針なんです」と斎藤主任は笑顔を浮かべた。今後の“西の前線基地”の効果が楽しみだ。(山下 優)