ソウル競馬場で9月8日に行われたコリアカップとコリアスプリントを、今年もライブ観戦した。レース結果はご承知の通り、2レースとも日本馬のワンツー。優勝馬はともに連覇を達成するなど、今年も日本馬の強さを強烈にアピールした。
コリアスプリントは、アメリカで重賞2勝、G1で2着の実績もあるアナーキストが参戦し、リメイクに次ぐ2番人気だった。しかし、2着に逃げ粘ったジャスパークローネから、アナーキストは6馬身離され、地元期待のスピードヤングとの叩き合いで何とか3着を確保。リメイクは昨年と同じく、上がり3ハロンで唯一、34秒台をマーク(34秒7、昨年は34秒3)し、この末脚は米国のブリーダーズCスプリントに向けて強烈な印象を与えた。
コリアカップは、クラウンプライドが前半通過の3ハロン38秒1-5ハロン62秒6のスローペースを、引っ張り切りの手応えで運び、勝負所どころ6ハロン目で11秒8のラップを刻み、後続を引き離した。ここは勝敗の分かれ目となり、最後の1ハロンは13秒0と一杯だったが、2着のウィルソンテソーロはクラウンプライドと脚いろが全く同じで、5馬身の差を最後まで詰めることができなかった。川崎から参戦したライトウォーリアは、ゲートボーイを気にして出遅れてしまい、普段とは違うレースプランとなってしまったが、3コーナー過ぎで進出し、4着に健闘した経験は今後に生きるだろう。
コリアカップとコリアスプリントは、22年から国際G3に昇格。今年からブリーダーズカップチャレンジシリーズとなり、カップ優勝馬はブリーダーズCダートマイル、スプリントはブリーダーズCスプリントの優先出走権が与えられるようになった。リメイクはもともとコリアスプリントからブリーダーズCスプリントというローテーションを組んでおり、父ラニに続く米G1遠征に夢が広がる。クラウンプライドは、盛岡(マーキュリーC=1着)で叩いてソウルへの輸送と詰まったローテーションだったこともあり、「体調を見極めて次走を決めたい」と新谷調教師はレース後に話していた。
地元勢にとって、昨年はコリアスプリントでポルマエスターが2着に健闘したが、今年はそのポルマエスターが13着大敗。新興勢力として、前走のオーナーズカップで2歳時以来の重賞Vを飾ったスピードヤングが4着に食い込んだ。2歳時以来の1200メートルで追走に苦労したが、今後の期待を寄せたい。スピードヤングの父は12年~17年まで韓国競馬のリーディングサイアーとして一時代を築いたメニフィー。そのラストクロップの代表産駒として、さらなる活躍を期待したい。コリアカップは、2年連続出走のグローバルヒットが、昨年8着後に重賞を3勝。4歳で充実期を迎え、昨年より1秒4も時計を短縮させて3着に健闘した。グローバルヒットの父は、11年シガーマイルHなど米G1を2勝のトゥオナーアンドサーヴ。
アメリカ血統が主流で、スピード色の濃い血統背景から、コリアスプリントではこれまで、地元勢も食い下がるレースを繰り広げてきた。しかし、昨年から招待馬のレーティングを引き上げ、レースレベルが飛躍的にアップした状況で、6月から8月の3か月間、1600メートル未満の重賞がないスケジュールは、今後の課題にすべき点と言える。韓国馬事会では段階的にレース体系の整備を行う計画を立てており、近年は試行錯誤の中でレース体系を整備している。
もちろんレース体系だけの問題ではないが、日本ではジャパンC創設がされた3年後の1984年に天皇賞・秋が4年後に芝2000メートルに短縮されるとともに、春秋のマイルG1がつくられるなど、スピード競馬に対応できるレース体系の整備がなされた。その84年にカツラギエースが日本馬初の優勝馬となり、翌年はシンボリルドルフが前年の雪辱を果たした。しかし、その後、日本馬にとって苦々しい結果が続いた。コリアカップとコリアスプリントは、国際競走としての歴史は浅く、発展途上である。カテゴリーを整備し、スペシャリストを生み出す努力は、主催者が最も力を注ぐところだ。
コリアカップの表彰式終了後、横山武史騎手にサインを求める人が多く、帰りのバスの時間ギリギリまで横山武史騎手が対応していた姿には地元メディアも喜んでいた。コリアカップデーが始まる前、場内やYouTubeでライブ配信された展望番組で、クラウンプライドの話題になった時、横山武史騎手の話題になると、解説者が「父の横山典弘騎手は、イングランディーレに騎乗していました」という話をしていた。イングランディーレは韓国で種牡馬となり、チグミスンガンという二冠馬を送り出し、その産駒であるシムジャンウェコドンがコリアカップに出走(6着)した。また、この日の3Rでチグミスンガン産駒の2歳牡馬であるチョンゴンウェソムが、3歳馬たちを相手に9馬身差の圧勝を演じ、初勝利を飾った。
7日の4Rに行われたJRAトロフィーでは、今年のコリアンダービーに出走(9着)したクリソライト産駒のマイセンターが出走。結果は2番手追走も直線で伸びず6着に敗れたが、第1回コリアカップ優勝馬の産駒が、JRAトロフィーに出走していて心が躍った。第2回と第3回でカップを連覇したロンドンタウンも2世代を日本で残した後、現在は韓国で種牡馬となっている。
日本人も多く来場されていたとはいえ、昨年の当欄でも書いたが、韓国の若い競馬ファンが日本の競馬を注視し、人馬を非常に勉強している。日本の競走馬市場でも、輸送面の問題はある中で日本生産馬を韓国のオーナーが落札するケースが目立ってきた。コリアカップとコリアスプリントは16年に創設。コロナ禍で20年と21年は中止する事態はあったものの、来年になれば創設から10年目を迎える。16年に初めて訪れた時から、場内のファンの熱気に変化が生まれ、若い世代の来場が増えた。コリアカップでの雪辱を期すべく、この後は大統領杯、グランプリと3歳以上の馬たちはビッグレースが続く。その後は、ドバイに遠征する馬も出てくるだろう。来年のコリアカップとコリアスプリントでは、日本馬と韓国馬が渡り合うシーンを見たい。(競馬ライター)